二十四. ゆく末への抗い⑪
「とっとと立て!」
憤りの収まらない隊士達の怒号が、夜の路地にこだまする。
屯所のほんの数間先で沖田達は残党に間もなく追いつき、激しく抵抗してきた者以外は生け捕って、連れ帰るべく厳重に縛り上げてゆくさなか。
「くそっ壬生狼が・・!」
「うるさいッ」
「暴れるな!おとなしくしろ!」
(まったく土方さんの狙いどおりだな)
騒然とする場を見渡しながら、沖田は苦笑せざるをえない。
尤も襲撃の当初より、どうも解せない思いもあった。
冬乃は襲撃は無いと、言ったはずではなかったかと。
(冬乃でも知らなかっただけか・・?)
それとも今夜、新選組が伊東達を粛清するはずだった歴史を変えた事と、何か関係があるのか。
「組長、終わりました」
隊士の呼びかけに、沖田はすっかりお縄になった残党達を一瞥した。
「では戻るか」
屯所へ踵を返す。
「貴様らなんぞ・・ッ・・戦になれば真っ先に蹴散らしてくれる・・!」
背後で悔しげに浪士の一人が叫んだ。
「黙れと言ってるだろうッ」
「今回はわしらの数がまだ足りんかっただけだ!・・十分に準備が整えば、貴様らなぞ最早、敵ではないわ!」
「そうだ!今宵とて、向こうのほうは我らの側が確実に多いからなッ、今頃全員死んどるわ!」
「何の話だ!」
「向こうとは何処の事だ」
沖田は振り返っていた。
顔を歪め醜く笑んだ浪士が、その表情のまま押し黙った。
(まさか)
あの時の僧の言葉が胸内を過ぎる。
―――その歴史に関わった多くの人々の意思もまた、直接的ないし間接的にその結末へ向かうものであったという事でございます故、
それらを覆すことは、その関わり合う縁の範囲・・規模が大きくなればなるほど、非常に困難になってくるという事は・・申し上げておきます――――
伊東達の粛清は、
討幕側こそが望んだ歴史。
ならば・・・
「一番組は俺と一緒に来い、寄りたい所がある。貴殿らは、」
連れてきた別隊の隊士達へ沖田は向いた。
「この侭、そいつらを屯所へ連行していただきたい」
「承知」
「組長・・?」
残された一番組隊士達が、不思議そうに沖田を見上げ。
「・・急ぐぞ」
(間違いであってくれ)
走り出した沖田に隊士達が慌てて後を追い始めた。
沖田の向かう道の前方から駆けてくる者が、監察の一人であることに気づいた時、
沖田の胸内の不安はどよめきを増した。
常に伊東達の屯所周辺に居て、こちらとの連絡係として動いている者だ。
彼もまもなく沖田達を見留めて、
「・・あ、あ・・」
目の前まで着くなり声を震わせ、今しがた来た背後を指さした。
「ふ、不逞浪士共が・・伊東さん達を・・」
最後まで聞くより先に沖田は再び駆け出した。
人の気配の無い、明かりの消えた屯所は。
「組、長・・・」
血の臭いに覆われ。
「至急局長に連絡を」
あの監察だけでは要領を得まい。
沖田の意図を汲んだ隊士達が蒼ざめた顔で頷き、他の部屋の状況確認に急ぎ向かった。
沖田は蹴倒された障子の向こう、外からの薄闇でも容易にわかる程おびただしい血の池と、そこに斃れている伊東を、再び見遣った。
佇む廊下から重い足を上げ。
障子を跨ぎ。
沖田は伊東の手前で斃れる骸へと向かう。
刀を握り込んだままの姿からは、最期まで伊東を護って闘った事が一目瞭然だった。
「藤堂・・ッ」
込み上げた慟哭に遂には圧され出た沖田の声が、虚しく闇へと沈み堕ちた。
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皆さま、こんな結果となり申し訳ありません・・
己で書いておきながら悲しすぎて暫く寝込みそうです、、
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