二十四. ゆく末への抗い⑧



 (・・・どういう意味で・・言ってるの・・・?)

 

 

 まっすぐ冬乃の横まで来て座る沖田を尚、見上げて。

 

 

 

 死期、ということばを、冬乃は心内でだけでなく耳でもすでに聞き覚えがあった。

 (・・たしかあの時、私が尋ねて)

 

 おもえば、

 沖田も聞いていた、あの僧の話で。

 

 

 何と、言われていたか。

 

 『全ての万象との縁が、其々大きくも小さくも作用したうえで定まるものでございますれば、』

 

 

 ―――人の“死期” についての答えを。

 

 

 

 『往々にして、その万象に導かれし死期を変えることは到底、困難なことなのでございます』

 

 

 

 (・・・そうだ・・・・)

 

 

 すでに、

 藤堂達が粛清される未来に沖田は気づいていたのだとすれば。

 

 僧のあの答えを聞いた時点で、

 

 ならばたとえ粛清を避け得ても、その運命の日から藤堂の“死期を変えること" は叶わない可能性をも、分かってしまったのではないか。

 

 

 ・・そしてそれなら、気づいているのかもしれない、

 

 続きの僧の話から、

 それでも今、奇跡を冬乃が祈っていることにも。

 

 

 

 「・・・総司さんの仰る通りです」

 

 こみあげた想いに圧され冬乃は、一瞬きつく目を瞑った。

 

 親友の死が近いことを、沖田はとうに受け止めていたことに。

 冬乃の胸内を切りつけるような痛みが奔り抜けても、

 

 (・・今は)

 希望へそれでも目を向ける如く、冬乃は次には瞼を擡げ、顔を上げて。近藤達を見据えた。

 

 「その日は、本来なら命日だからこそ何が代わりに起こるか分からないため・・伊東様も藤堂様も外出をされずにいることが一番安全と思ってのお願いです」

 

 それが叶って二つの大きな変化が、

 

 運命をも変えることを願って。

 

 

 

 「成程わかった」

 

 すぐに近藤が大きく頷いた。

 

 「必ずその日は避けよう。歳も、異存はないな」

 

 「・・勿論だ」

 

 (あ・・)

 「有難うございます・・・!」

 

 「こちらこそ有難う」

 近藤が、未だ少し悲しげな色を残した顔で微笑んだ。

 

 

 「・・さて、夜ももう遅い。お開きにするとしよう。斎藤君もご苦労様、明日からの滞在先については、監察から明朝には連絡があるはずだから待っててくれ」

 

 「承知」

 報告を終えたのちはずっと黙して静かに座っていた斎藤が、小さく返答した。

 

 

 伊東一派と双方の行き来を禁じている以上、斎藤はほとぼりが冷めるまで暫く新選組からも離れて別所に潜伏することになる。

 

 せっかく帰ってこれたのに、沖田と斎藤がまた稽古をできるようになる日は未だもう少し先になるだろう。

 

 そして、斎藤がもう一度此処に戻ってこれる頃には。藤堂のことも、きっと答えが出ている。

 

 冬乃は、震えてしまうままの手を再び握り締めた。

 

 (どうか)

 

 もう幾度も胸内に念じた祈りを、尚繰り返して。

 

 

 

 

 

 「・・何か、今」

 

 不意に、

 中庭のほうから人の騒ぐ音が起こった。

 

 「山崎さんの声が聞こえなかったか?」

 「何だ・・?」

 

 その間にもドカドカと廊下を駆けてくる足音が響き、近藤達は障子をおもわず見つめ。

 

 「・・局長・・!山崎です、開けます!」

 「ああ、一体どうされた?」

 「たった今、入った情報を・・っ」

 

 勢いよく開けられた障子の向こうには、息をきらす山崎の姿。

 

 

 刹那、冬乃は。

 

 思い出していた。

 

 

 「あの土佐の坂本が、何者かに暗殺されました・・・!」

 

 

 

 十五日の今日が、 

 坂本龍馬の暗殺された日であったことを。

 

 




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