二十四. ゆく末への抗い⑦


 

 (・・その日から夜中までは、藤堂様に絶対、外出はしないようお願いして・・・そして伊東様も、できるならば同じように)

 

 伊東の命日でもある、その日を。

 

 無事に生き抜ければ、

 そうして本来の運命の日を避けることがもしも叶えば。

 

 その先に奇跡が起こりうる可能性は増すかもしれない。

 

 幕末史に刻まれる規模の歴史を、覆せる希望がみえてのち、

 冬乃の胸内で芽生えてずっと息づいている、その祈り。

 

 

 「・・もうひとつお願いがあります」

 

 冬乃は意を決して近藤と土方を見据えた。

 

 「もし伊東様が、代替日として十八日を打診なさられた場合は、・・その日をどうかお断りくださいませんでしょうか・・・」

 

 「何故だ」

 土方の探るような睥睨に、

 「その日は・・」

 冬乃は膝上に流した手を今一度握り締める。

 

 「そもそも、本来なら何が起こったんだ」

 

 聞かずともまるで察したように。土方が不意に問いを追わせてきて、

 冬乃は言葉を呑みこんだ。

 

 「近藤さんの暗殺の偽計画で俺達が踊らされることはもう無くなった、だったら俺達がおまえの話から想像していたこの先の事態も、回避したはずだ。今ならはっきり聞かせてくれても問題無いだろう?」

 

 「・・はい」

 冬乃は、まもなく緊張したままの息を小さく吐き出した。

 

 「元の歴史では、・・十八日に伊東様は・・新選組に粛清されました」

 

 

 場は静まりかえり。

 

 「・・・改めてはっきり聞くと、辛いな」

 

 近藤が、やがて。悲しそうにぽつり呟いて。

 冬乃は近藤の目をもう見ていられず、唯小さく俯いた。

 

 「藤堂もか」

 土方が問いを重ね、

 冬乃はびくりと肩を震わせて。

 

 「はい・・」

 なんとか頷いてみせれば、

 

 「やっぱりな」

 続いた土方の溜息と。

 「実に想像し難い・・、何故俺達が藤堂君のことすら信じてやれなかったのか」

 近藤の震えた声が。顔を伏せたままの冬乃に届いて。

 

 「・・藤堂様まで誤解されてしまっていたのかは分かりません、・・ただ、藤堂様は伊東様のなきがらを引き取りにいらして・・・待ち構えていた新選組と闘って、それで・・・」

 

 伝えるにはやはり辛すぎる元の歴史を冬乃は、声を絞り出すように続けてゆく。

 

 「永倉様の遺された記録では・・近藤様たちは藤堂様を逃そうとされていたそうです・・ですが、それを知らなかった隊士の方に・・・」

 

 

 「冬乃さん、辛い事を話してくれて有難う」

 

 労わるような近藤の言葉に、冬乃ははっと顔を上げた。

 事実、上げた刹那、冬乃の目からは涙が零れ落ち。

 

 「・・ごめんなさ・・」

 慌てて再び顔を伏せた冬乃を、

 

 「で、その十八日を避けたい理由は何だ」

 

 土方の問いが、だが間髪いれず追った。

 

 「もう起こるはずのない事だろう。なのに何故その日、未だ伊東さんと俺達の接触を避ける必要がある」

 

 

 「それは・・」

 

 運命を変える希望に縋るため

 

 

 「“そうすれば、藤堂の死期を変えられる” 」

 

 

 襖が開いて。

 戻ってきた沖田を、冬乃は吃驚して見上げていた。

 

 

 「冬乃はそう考えているんだね・・?」

 

 

 (・・・え)

 

 沖田の、その確認に。咄嗟の声が返せぬ侭に。




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