それでも季節は巡って

@pcc32

第1話

高校二年生。春。

この季節の窓際の席は好きだ。髪をなびかせる麗らかな風が心地良い。

……早く終わらないかな。

退屈そうに頬杖をつきながらも、思わず笑みを浮かべずにはいられなかった。

「ーーはい。では、これで委員会決めを終わりにします」

担任教師の一言でざわざわと席に戻る生徒達。窓から黒板に目を向けた瞬間、息が漏れた。

「HRが終わったらそれぞれの委員会の教室に移動して下さい」

なんで、まさか、どうして、と様々な言葉達が頭の中をぐるぐると回る。

「ーーちょっと、天音あまね。何ボケっとしてんの。HR終わったよ」

一言ループの中に刺すような声が聞こえ、顔を上げた。こんなトゲトゲしい言い方をするのは、クラスに一人しかいない。

「……秋乃あきの

「ほら、委員会始まるから。また話聞かせて」

口の端が上がっていたのはおそらく気のせいではない。絶対笑ってた……!

覚悟を決めて重い腰を上げると、目の前に黒い影が落ちた。


望月もちづきさん?」

びくりと肩が震える。それと同時に私の名前知ってるんだと冷静に考えてる自分もいた。

「うん、そうだけど」

「よかった!クラス替わったばかりで、名前合ってるかちょっとヒヤヒヤした。2年5組の教室だって、行こ!」

そうはにかむ笑顔は想像以上に綺麗だった。呆けそうな表情を崩さないように後を追って教室を出る。

歩く度に揺れるセミロングの黒髪。膝にかかるスカート。足の長さを強調している紺のハイソックス。

颯爽と歩く姿はまるでモデルの様。これは私の主観ではない。あくまで客観的にみての感想だ。

そして、模範的な生徒。その言葉がぴったりだ。

ーーただし。

ふと足を止めて、振り返った。その姿でさえ様になっていて、思わず息を呑んだ。

「あっごめん、名前ちゃんと言ってなかった。俺、藤宮ふじみやひなた。よろしく!」


ーー女子生徒、なら。


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