エピローグ
六一八年 十一月十一日。
少女は、嵐の中でひとり母となった。
生まれてきた子は健康な男児で、彼女に似た髪と目を持っていた。
リゼットは半日にも満たない短い時間、息子を抱いて過ごし――そして、迎えに来たクヴェンに彼を託した。
彼女は城には戻らない。しばらく父の知り合いの元で体を休めて、その後は名前も知らなかった街に嫁に行く予定だった。相手は随分と年の離れた人で、子供のいない裕福な家の後妻に入ることになるそうだ。まだ会ったこともない人だけれど、父を信頼しているので、そのことは何も心配はしていない。
預かったまま、渡しそびれていたいつかの人形は、二つとも連れていくことにした。これは、想いが届きかけたあかしとして、自分で持っていようと決めた。
この思い出があれば、私はどこでだって生きていける。
愛するゲオルグ様。
大切なことを手紙で伝えることになってしまって、ごめんなさい。
優しいあなたはきっと引き留めてくださるので、この手紙を、お別れのご挨拶として父に託します。アヴァロンを出て暮らすことにしました。父にはこの件について色々と無理を言ってしまいましたので、どうか責めないでください。
この一年、あなたから頂いた真心と優しさを、私は生涯忘れることはありません。あなたと出会えたことが、私の人生で最も素晴らしい出来事でした。
けれど、私はこれ以上お側に留まることはできません。
友人として、あなたの孤独を癒やすことができないのは悲しい。けれど、それが私とあなたの道だと信じます。
大切な役目を背負って生まれてくる、私とあなたの子。どうか、良い名を授けてやってください。
遠く離れていても、いつまでもあなたとこの子のことを想っています。
どうか、いつまでもお元気で。
リゼット・パーカー
その後ゲオルグは、しばらく執務に手を付けなくなったが、やがて、再び摂政としての務めを果たすようになる。耐えたのだ。
リゼットとゲオルグの息子は、ジェラルドと名付けられ、まもなく、クヴェンの手で姉の元へと送られた。
成長した彼が、姉マーゴットと共に父の元へ戻ってくるのは、これより十年の時間を経た後のことである。
真夜中の虹 二月ほづみ @fsp
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