最期の舞踏会
橘えみり
第1話
彼女は 笑っていた
常に桃色の匂いを絶やさない頬に
厚く真っ赤な秘めやかさを塗り重ねて
恥じらいも志も消え去った清らなあの広間に
濁りのない美しい瞳を向けた
暖かな湧き水の如くあらわれた純情の輝きに目もくれず ひたすらに信条を刻み続けたであろう半生にふと思いを巡らせて
あの冬の朝の彼は
彼女の透き通った淡い抱擁に
ほんの一瞬未来を賭けた
こぼれ落ちた雫をそっと拾い集め
少し曇りがかった鏡の向こうに据え置いた友の目には 何も映らなかった
大きな翼を広げた あのツバメの勇ましさも
静寂の湖にそっと舞い降りた あの木の葉の愛らしさも
はらりと一生に終止符を打った
幼く柔らかな花たちがささやきはじめた
群青色の空を駆ける とある星の物語
そう それはいつものことだった
最期の舞踏会 橘えみり @Beautifulgarden
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます