最期の舞踏会

橘えみり

第1話

彼女は 笑っていた


常に桃色の匂いを絶やさない頬に

厚く真っ赤な秘めやかさを塗り重ねて

恥じらいも志も消え去った清らなあの広間に

濁りのない美しい瞳を向けた


暖かな湧き水の如くあらわれた純情の輝きに目もくれず ひたすらに信条を刻み続けたであろう半生にふと思いを巡らせて


あの冬の朝の彼は

彼女の透き通った淡い抱擁に

ほんの一瞬未来を賭けた


こぼれ落ちた雫をそっと拾い集め

少し曇りがかった鏡の向こうに据え置いた友の目には 何も映らなかった

大きな翼を広げた あのツバメの勇ましさも

静寂の湖にそっと舞い降りた あの木の葉の愛らしさも


はらりと一生に終止符を打った

幼く柔らかな花たちがささやきはじめた

群青色の空を駆ける とある星の物語


そう それはいつものことだった




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最期の舞踏会 橘えみり @Beautifulgarden

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