第8話親友
もうどれくらいこの部屋に通った?
俺の物も増えてきた
もう誰もこの部屋には入れない
誰もこの部屋には入れない
それでいいんだろうか?そろそろ失恋の傷も癒えたか?
それでも俺はこの部屋から出たくない
居心地いいし、飯も旨い
酔ったお前は可愛くて手放したくない
最初のうちはお互いに酒の力を借りて眠った
今はほろ酔いのまま俺に寄りかかって眠る
酔って覚えてないだろうがキスをせがまれた事がある
さすがに起きてる間には無理だ
他の奴の事を思い浮かべてされたくない
だから寝てる時くらい許せよ?
髪にキスして頬を撫でて
愛おしい、離したくない
もうどれくらいこの部屋で寝ていないか
一晩中お前を見てる、徹夜で仕事でも構わない
無防備に安心しきったお前の寝顔
それが見られるなら辛くても耐えられる
寝ぼけてお前を襲わないように
一晩中お前を見てるよ
そんな頃の水曜だった
突然鳴ったチャイム、お前は頭を振るし訪問者に見当が無いらしい
女の一人暮らし、俺がいない時はどうしてるんだ?
次も来ないように俺が追い払ってやる
そんな気持ちで開けたドア、立ってたのはお前の兄貴で俺の親友
お互いに何で?って顔して、俺は思った
あぁ、俺は兄貴代わりのつもりだったが
本当の兄貴さえ部屋に入れたくないんだな
そして気が付く、部屋の中を見られたら言い訳できない
「良かったな奈智、初恋が実ったのか。一緒に暮らしてるのか?」
親友は意味の解らない事を口走り部屋の中に入ってくる
初恋?誰が誰に?
やっと彼氏いない歴イコール年齢とおさらばか?
この部屋に引っ越して連れ込むって言ってたもんな
ペラペラと話し出す、俺が知らない話
待ってくれ、知らなかったのは俺だけなのか?
お前はずっと俺を待ってたのか?
「失恋したんじゃないのか?」
やっと出てきた一言にお前は堰が切れたようにしゃべりだす
貴方だけを見てきた、貴方しか部屋に入れてない、貴方だけに触られたい
貴方しか知らない、知りたくもない
泣きじゃくりながらまくしたてる
泣いてるのにな、すまない
愛おしくてニヤケが止まらない
お前がうつむいてくれてて良かったよ
こんな顔見られたくない
全て出し切ったのか、黙っちまった
一歩踏み出してお前を抱きしめる
「お前に触れてもいいんだな、俺は引っ越してきていいのか?籍入れようぜ?」
うつむいたまま「籍は早いよ」
あぁ恋人をやり直そう初めからな
あなたが、おまえが欲しい 響奈津子 @hibiki_natuko
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