その5

 それでどうなったかというと……。


「え? お父さんが故郷にいて、お母さんが今は札幌なの?」

 目の前の女性——剛のお母さんは、少し顔をしかめた。

「はい。父と母は、私が高校を卒業するのを待って離婚したんです」

 剛のお母さんは、眉をぴくりとさせて、私の隣の剛を睨んでいた。

「まあ、せっかく真奈美さんがきてくれたんだ。食事を始めよう」

 剛のお父さんが場を取り持ってくれた。

 帰りがけ、剛のお母さんは私を呼び止めた。

「真奈美さん、あなたはすばらしい人だと思うわ。でも、剛には、この井上医院を背負ってもらわなくちゃならないの。そのところ、わかってくださいね」


 宇宙人たちは、私の人生を今でも観察しているのだろうか?

 そして、どのように結論を出すのだろう?


 今のところ、両親が離婚して、それぞれが別の相手と再婚を果たし、幸せな生活を送っているという以外、大きな変化はなかった。

 私は、前回と同じように医大を受験し、剛に出会った。

 そして恋をした。が……。

 私の願い事は、両親が幸せになった見返りに、私の運命を大きく狂わせてしまったようだ。

 


 私は、学校を卒業した後、北海道の大学病院でインターンとして働く事になった。

 そして、いつか故郷に帰って病院を開業したいと思っている。

 都会は苦手だし、剛は好きだけど、剛のお母さんとはうまくやっていく自信がない。医院長夫人なんて向かない。


 だから、これでよかったのだ。


 札幌の大学病院の近くにアパートを借りた。

 新しい私の出発だ。

 引っ越しの挨拶に、菓子折りを持って隣の部屋に行った。

 まだ表札も出ていないところを見ると、隣もこの春に新しい生活を始める人らしい。

 私はこほっと咳払いをし、ドアホーンを鳴らした。

「あのー、私、隣に越してきた斉藤と申しますが……」

 出てきたのは、ジャージ姿の……。

「よう! 真奈美。遅かったな」

「つ、剛???」

 私は思わず目が点になってしまった。

 彼は、実家の近くの大学病院にいるはずだ。

「おふくろがひどい事を言ったのは悪かったけれど、それで音信不通はないんじゃないのか? 俺、マジで怒った」

 この展開を待ち望んでいたらしく、彼の顔は微笑みで崩れっぱなしだった。

「ななな、なんで、あなたがここにいるの!」

「こっちの病院に希望を出して、変えてもらった」

「で、でも、家は?」

「あ、家? 弟に任せた。俺、昔から家を継げ、って言われていたのに反発を感じてたって言っていただろ? でも、家を出る勇気がなかった。おふくろの真奈美に対する態度を見て、目が覚めた」

 私は唖然として、口を開けたままだった。

 どうやらやり直しは、剛さえも強くしてしまったらしい。

 私をぎゅっと抱きしめて剛は言った。

「心から医者になろうって思ったのは、真奈美に出会ったからなんだ。だから、いつかいっしょに病院を開こう」

 私もぎゅっと剛を抱きしめた。


 ありがとう。お願いドラ。

 やり直した人生は、やり直す前よりも、ずっとずっといいみたい。


=エンド=

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あの日に帰りたい わたなべ りえ @riehime

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