第4話 隠密
隠密というのは便利だった。目の前を暗殺者が通って行ってもこっちには気が付かなかったようで、見失ってしまったからか少し舌打ちをして姿が見えなくなった。
完全に暗殺者の姿が見えなくなってから皇帝の死体に手を合わせ、皇帝から預かったアミュレットを大事にしまい、出口を探すことにした。まだ暗殺者がいる可能性もあるため、急いででることはせず、できる限り隠密のスキル効果を発揮させながら動くことにした。隠密のスキルが発動しているかどうかというのは、感覚でわかるようだった。少し急ぎ足になってしまったときは
「上手く隠れられませんでした」
とのメッセージが頭に浮かぶ。メッセージを出さないようゆっくり進むことにした。
すこし先に進んだところで、二手に分かれる道が現れた。片方は地下に進むような洞窟の中の道。片方は現在のいる場所のような石造りの道だった。普通に考えれば石造りの道を進むのが出口にいける方法ではないかと考えたが、整備された道の先には暗殺者が待機している可能性もあるし、元々のここの場所ができた内容を考えると城に繋がっている場所は最初の入り口のところと思ったため、石造りのところを進んでもよい結果とならないと思い、洞窟の中へ進んでいくことにした。こういう時は難しい方へ進むことがきっと正解なんだと自分に言い聞かせながら。
洞窟は少し先に進んでみると、天井は約3m、横には5mくらいにひらけた場所にでた。辺り一面真っ暗だったが、アミュレットの効果か、夜目がきくようになったため、足元や辺り一面を見ることができた。ただ、そこまでくっきりと見えるわけではないため、穴に落っこちたり石等に躓かないよう細心の注意を払わなければならない。
洞窟は広い割に一本道で、少しずつ登り坂となっていった。やはり地上に通じているのだろうか。ときおりする物音もネズミや蝙蝠のもので、驚きはするものの命の危険はなかった。
バキッ。足元から何かを割ってしまった音がした。足元に目を落としてみるとそこにあったのは骨だった。
「ひぃっ」
思わず声がでた。明らかに人の骨だったからだ。申し訳ないのとたたられたりしないかドキドキしながら手を合わせてお祈りした。お祈りも終わり、先に進もうかと思ったとき、骨がガラガラと音を立てながら立ち上がってきた。
「な、な、なんだ!?」
なんとか振り絞る声。尋ねたところで相手が答えてくれるはずもないのに。
骨が人型になったかと思うと、いきなりこちらに向かって手に持っていた古びた剣で切りかかってきた。どういう判断をしようと思うよりも早く、予想外の出来事に勝手に後ずさりしてしまい、足がもつれて転んでしまった。頭の上を剣が空を切る。危機一髪だ。
持っているのは戦うスキルではないため、必死で逃げる算段を考える。しかし思った以上に足が動かない。その間にも骸骨は態勢を整えもう一度剣をふりかぶった。
もうダメだとあきらめかけたその時、頭の奥の方から声が聞こえた。ボー○ロイドのような声だ。
「レベルアーップ!スキルポイントを割り振ってください」
レベルアップ?まだ何も倒してないのにどうしてだ?と疑問に思っていると、隠密のスキルが少し上がっているのと、先ほどの奇跡的な避けで軽装備のスキルも上がっていた。そうしたスキルの上昇の合計でレベルがあがったのだろうと推測する。
かなり危険な状況ではあるが、持ち前の冷静な判断で、スキルポイントの割り振りで現状の打破に使えそうなものは、戦闘スキルだと考え、すぐに発揮できそうなスキルを探す。スキルを探す間は時間が止まっているようだった。動けないが思考だけは動いているという感じだ。やはり戦闘スキルですぐに使えるものとなると、魔術、幻惑、召喚(レベル1では大したものは呼び出せないか?)破壊、と近接系スキルであった。近接系は手持ちに武器が無いので、使うことはできないだろうと考え、ここは幻惑を選ぶことに決めた。
幻惑、その名の通り相手を惑わすことができる魔法だ。魅了とかのような相手を操作することもできるが、今回は姿を隠すだけで良いので、隠密のスキルが発動するまで自分の存在を隠すことができればよい。
そうと決まればさっそく幻惑のスキルを獲得する。不思議なことに頭の中にいくつかの魔法の唱え方が沁みこんでくる。頭に浮かぶというより、沁みこむという表現が適しているように感じる。
獲得した途端、止まっていた時間が動き出す。先ほど覚えた魔法の中の小さな霧を出す魔法を唱える。
「ミスト」
小さく唱えた。スケルトンの前に小さなもやがかかる。試しに隠密を使用すると問題なく発動しているようだ。スケルトンは知能というのはないようで、先ほどまで戦っていた相手の姿が見えなくなったとしても、探したりせずまた元のバラバラな状態に戻っていた。
ふぅ……小さなため息を吐き安堵する。この世界に来てからどうも命の危険と隣り合わせになっている。現代では車などの危険はあるが、さすがに魔法や剣で攻撃されるなんて危険は存在しない。あまりにも現実とかけ離れたことの連続でとても疲れてしまったようだ。どうにかここを突破して暖かいお風呂にでも入りたいな。少し愚痴まじりの言葉を飲み込みつつ、出口へと急いだ。
35歳中間管理職忘却の物語 ポスカ @reap516
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