第3話 ご都合主義
奥に入っているというのに辺りはあまり暗くない。牢屋の奥とは思えないほど、石でくみ上げられた大きな空間であった。元々ここが城の一部だったと言われたら信じてしまうほどだ。また、ときおり光の玉のようなものが浮いているように見えるが、どういう仕組みだろうか。光の玉に触れようとすると少し暖かい気がしたが触れることはできなかった。
「選ばれし者よ、来て早々騒々しくてすまない。折り入って頼みがあるんだ」
道なりに歩いていると、皇帝から言葉が投げかけられた。先ほどの続きだろうか?僕は恭しくできる限り丁重な言葉を使って
「皇帝様、頼みというのはどのようなことでございますでしょうか?ワタクシめにできることならば何でもやるでございますよ」
「うむ。まずは言葉が変なのを直してくれ」
怒られた。
「申し訳ありませんでした」
素直に急いで謝るのは社会人の務め。
「まぁよい。頼みというのはだな……」
「Watch out! ungh……」
兵士が叫び皇帝を庇う動作をする。するとその前方から鋭い矢が飛んできた。もう暗殺者が追いついてきたのか!いや、前方から来たとすると、もしかすると出口側から入ってきたのかもしれない。矢は兵士の心臓を貫き、倒れてしまう。
「皇帝。ここは逃げるのが先決です!話は後にしましょう」
前方の暗殺者を気にしつつ、細い抜け道を探した。本来の出口は暗殺者がいる側だろうから、どうにか回り道を探すか、もしくは暗殺者を倒すか……。後者は無理だと感じた。熟練であろう兵士がやられてしまっているのだ。素人の自分では到底勝てないだろう。いかに逃げ回り、ほかに助けを求めるのかを考えた方が勝率は高そうだ。
今のところ選択肢は来た道を戻るしかない。戻っていく道で、どうにか暗殺者をやり過ごすことができる所は無いか必死に考える。
思いついた。思いついたが、自分が死ぬ結果しか見えない。
死にたくないが皇帝と自分の命を比べたらどっちが重いか明白だろう。
やるしかない――
「皇帝、作戦があります」
その作戦とは、皇帝と自分の服を交換することだ。
この少しの明かりの中、顔等で判別することはできないだろう。服の色や形で判別してくるはずだ。自分が皇帝の代わりに囮となり皇帝を逃がす作戦である。
一か八かではあるが、やらないよりは可能性があると思った。
―――だが、皇帝は賛成しなかった。
「選ばれし者よ。私はここで死ぬのだよ。これはずっと見ていた夢で知っている。ここでお主と出会い、これを託し、殺される。決まっていたことだ。だから何をしても無駄である」
皇帝から何かアクセサリー的なものを託された。
「それは皇帝のアミュレット。そのアミュレットを持つだけで世界を救うことができるのだ。私には使う勇気がなかった。使う未来が無かったといってもよいが、選ばれし者にのみ扱える代物である」
世界を救う?選ばれし者?なんだそのゲームみたいなのは。半信半疑でアミュレットを首にかけた途端、頭に何かが語りかけてくる。
「ようこそお越しくださいました。あなたはこれから無限にあるクエストをこなし、自分のスキルを高めて自由な生活をしていくのです。まずは最初にスキルを1つ選んでください」
……なんだこのゲームの最初のチュートリアル調の言葉は。先ほどまでの緊迫感はなんだったんだ。これは夢なのか?
*ゆめのなかにいる*
ふと変な言葉が想い浮かんでしまった。
すかさずまた声が聞こえてきた。
「気を確かに持ちましょう。夢ではないですよ」
少し機械音声っぽいのがむかつく。お前はボ○カロイドなのか?歌わせるぞこの野郎。
「スキルを選んでください」
ふーむ……スキルか…。異世界チートになれれば楽しいかもしれないが、まずは暗殺者から逃げる術を考えなければ。役立つスキルはあるかなっと。
「スキルは以下の中からお選びください。刀剣、殴打、格闘、持久力、鍛冶、防御、重装、速度、運動、軽業、軽装、敏捷性、開錠、隠密、射手、魅力、商才、話術、幻惑、知力、錬金術、召喚、神秘、気力、変性、破壊、回復」
多いな!
ところどころ良くわからないスキルもあるが、今役に立ちそうなスキルは……。
殴打―――これをとって殴ってやるか。飛び道具には負けそうだ
速度―――何の速度だ?敏捷性と二つあるから足の速さなのかな。ダッシュで逃げることができれば役に立つかも
隠密―――見つからなければどうということはないです
話術―――話が通じれば……賭けすぎるな
幻惑―――惑わせることができれば最強だけどな
召喚―――どんなのを召喚できるのか気になるところ
破壊―――物騒だ
うーん、スキルを選ぶってどのくらいの強さのスキルになるのかが分からないと難しいな。倒せるくらいのスキルなら良いが、倒せないならばスキルを取る意味がない。
一番役に立つのは隠密のような気がする。隠れてやり過ごすのが一番だよなぁ。
よし、隠密をとるぞ。
「かしこまりました。隠密スキルが1上昇しました」
これでまずは隠密をやってみるしかないな。どうやるのかはわからないけどしゃがんでゆっくり動けば見つかりずらいはずだろう。
皇帝は死ぬ運命と言っているが、見捨てるわけにもいかない。
「皇帝、少しずつ隠れて進んでいきましょう」
「それも無駄なのだ。よいか、そのアミュレットは絶対に敵には渡してはいけない。必ず必要になるときがくるから、その時まで大切に持っていてくれ」
皇帝の決意は固かった。ここは自分が生き残る道だけを考えて進むしかない。
「私にはこれが天命なのだよ。あとは頼んだぞ」
こっちを向いた皇帝のお腹から金属的なものが突き抜けてきていた。いつのまにか皇帝の背後に暗殺者が来ていたのだ。皇帝は口から血を吐きだし、床に倒れこむ。さっきまでの後ろにあった人影が消えており、皇帝の身体から金属も無くなっていた。
「皇帝!!」
すぐに駆け寄ったが、皇帝はもう絶命していた。
暗殺者も姿が見えない。このまま隠密を続けて生き残らねば。
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