第2話 土下座の意味
頭が痛い。
ずきずきと痛む頭をさすりながら目を覚ます。薄暗いカビ臭い場所。
古く錆びついた鉄格子がついている。触ってみるとひやりと冷たく手の体温を奪っていった。少し力を入れてみてもさびている割には頑丈で、びくともしない。
どうして牢屋にいれられたんだ?――先ほど握った金貨を思い出す。あれを拾ったのがいけないのか。しかし盗んだわけでもなく、ただ拾っただけなのにあそこまで殴らなくてもいいじゃないか。心の中で舌打ちをする。
カンカンカンカン……足音が聞こえる。どこからか近づいてくるようだ。
「Clear」
看守の声だろうか?誰かにあいさつしているようだ。異常なしって言ったのか?
足音がどんどん大きくなる。一人ではない、2、3人といったところか。
近づいてくる前に、シミュレーションをしておかなければならない。クレーム対応は脳内でいくつものシミュレーションを行い、その中で自分なりの解決策へ導くための最善策を選ぶ必要がある。間違っても行き当たりばったりでやってはいけない。話が飛躍しすぎるが、新入社員でありがちなのはとりあえず謝っておけばよいというやつだ。土下座というのはただすればよいってものではない。しかるべきところで土下座をするから効果があるのであって、いつも土下座をするのでは効果はでない。溜めて溜めて、思いっきり申し訳なさそうに、悲痛な思いをぶつけるかのように叫ぶのだ。溜めといっても、某ドラマのように膝を押しながら一生懸命悔しがりながら土下座まで5分かけるとかそういったのはしなくていい。溜めるのはもったいぶるのではなく、プライドを折れる瞬間を相手に見せつけて、地べたに正座し、謝罪の言葉を口にだし、頭を地面をなめるかの如く下げるのだ。その時必ずおしりは上がらないように。低頭平身が大事。しかし、先にも言ったが、最初からそれをしたところで、こいつは頭を簡単にさげるやつだと思われてしまえば土下座の価値は無い。絶対に土下座しないような人が土下座をすることが相手の優越感をくすぐることになるのだ。
おっと、土下座スピリッツを語ってしまいシミュレーションがおろそかになってしまった。
次のシミュレーションはできず、残念ながらもう目の前に来客は来ていた。
「こんにちは。いや、こんばんはかね?」
に、日本語だと……!
シミュレーションもできない上、予想に反した言葉が出てくるとは……。
やばい頭が真っ白だ。
こんな時は、と頭をフル回転させ、考えを巡らせるが、何もでてこない。
とりあえず、
「こんばんわ!」
挨拶しておいた。
来客は中々豪華な衣服を着ていた。こんなさびれた牢屋には似つかわしくない、赤色のマントは装飾品が付ききらきらしている。中の衣類は青色に何かの模様が描いてある。
隣の人たちは普通の兵士みたいな恰好だ。殴ってきたやつらと同じ感じだ。つーか顔がみんな同じにしか見えない。モブキャラめ。
皇子か王様か、そういうえらい人なのだろう。
ここはやるしかない。
地べたに正座し……
悲痛な声で叫ぶ
「申し訳ありませんでした!!」
三つ指を付き、地面をなめるかのごとく頭を下げる。少し頭打った。痛い。
「なにとぞ、ご容赦願います」
ここまでやれば斬り捨てられるとかはないだろう。
「ん?何か勘違いしているな?」
あれ?何か違ったかな。おそるおそる顔を上げる。
「やはりそうだ、君が私の予知夢にでてきた者に違いない。すまないが少しばかり力を貸してもらえないだろうか?」
予知夢?力を貸す?こんな所に入れられて、何が何だかわからない状態なのに、一体何を言っているんだ。しかし、この人は偉い人っぽいし、長いものには巻かれる偉い人には従うしかない。それが会社員のサガ。
「何のことかわからないのですが、私に力になれることがあるならやらせていただきます」
もう一度頭を下げる。
「もう頭をあげい。実はだな……」
「Emperor!!Assassin has been attack!」
隣の兵士の声に驚き顔をあげる。兵士が黒づくめの者と交戦し始めたようだった。アサシン……暗殺者!しかもエンペラーだって?この人が皇帝だというのか。
「Emperor!Escape route in the back of the jail.Lucas I'll leave it to you.」
「すまぬ、必ずお前も生きて戻れ」
「Zacks! Consider it done」
なんだかついていけてないぞ。とりあえず俺は皇帝とやらについていけばいいのかな。皇帝が言っている途中で切れてしまった会話も聞き取れなかったし、英語もよくわからない。
しかしなぜ皇帝の言葉は日本語なんだ?二人の兵士とも会話しているようだし、意味がわからないぞ。
ルーカス?と呼ばれた兵士が牢屋の奥の鎖を引くと、石の壁が大きな音を立てて動き出した。ぽっかりと人が通れる穴が開いた。
ルーカスと皇帝は奥を確認しながら穴へ入っていった。後ろに続くとしよう。牢屋の前ではザックスと暗殺者の緊迫した戦いが続いていた。
ザックス頑張れ。心の中でつぶやき、穴へと入る。というか、仕込み壁というのか?牢屋についていたらダメでしょう……。みんな逃げ出すよ。いろんなことを思いながら、先に入った二人についていくのだった。
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