恋のオノマトペ?(原著:雨天荒さん)

 ほわんほわん——

「……よ!」

 ウキウキ——

「……すよ!」

 ワクワク——

「……だからっ!」

 ふにゅーん——

——どかどかどか——バタン!

 えへへへへ……

——つかつかつか——ばごんっ!

「ご飯だって言ってるでしょ! 何ニヘラニヘラしてるの!」

 ぼくの至福のひとときは、かあさんのお盆の一撃でこなごなに砕かれた。ぼくの頭をがんがんと揺らしたお盆は、まだぐわんぐわん震えている。

「痛いなぁ、かあさん。いきなり叩くなんて酷いよ!」

「何言ってんの! さんざん呼んでも来ないから、二階まで呼びに来たんだから。ご飯よ、ご・は・ん!」

「分かったよぉ。……因みに今日のおかずは?」

「お父さんの釣ってきたきすの天麩羅よ。大漁だったのよねー」

 ウキウキしてるのが、大漁だったとうさんじゃなくて、かあさんだってところが、面白い。やっぱり、夫婦なんだなぁ。

 ルンルンと鼻歌交じりに部屋を出て、どたどたと階段を下りていくかあさん。

 それじゃ、ぼくもご飯を食べに行こうかな。

 えへへへへ——

 頬が緩む。

 あのとのさっきの電話。

 ぼくのきゅうっとした切ない胸の内。そのくせ、ぽかぽかでワクワクして、ふにゅふにゅでドカーンな思い。そんなことをずーんとどばーっと囁くようにぶち撒けた。

 結果はオーライ! 二重丸っ!

 少なからず、彼女もぼくのことをゴニョゴニョって思っていたらしく、ぼくの心はズバーンと雲を突き抜けて宇宙空間まで辿り着いちゃった。

 そんな嬉しい余韻に浸っていたのに、無粋だよな、かあさんってば。

 でも、ペコペコにお腹が空いているのも間違いない。ピリピリした緊張感に隠れていた空腹感がひょっこり顔を出しちゃった。

 階段下りて、居間を通って食卓に着くと、とうさんが身振り手振りで今日の釣りの話をしていた。

「——ドバーッと遠くまで投げたら、ヒューンってな具合で仕掛けが飛んでってな、ズドンと狙い通りのポイントにピシャーンと落ちたのさ。そうしたら、すぐにズドーンってくらいに引くんだよ、これが。ビシビシ引きまくるから、こっちもグイグイ竿煽るだろ? あっちも必死だからな、そりゃ。だが、こっちも負けじとガンガンリールを巻いたんだ。竿はブルブル震えるし、リールもきぃきぃ音立てるし……あ、新しいリール買っていいか? ……で、せいやっとばかりにぶっこ抜いたら、なんと、四匹も喰い付いてたんだよー」

 自慢気なとうさん。……それにしても、オノマトペ多いよね、とうさんの話しって。

 そのとうさんが、ぼくの方を向いた。

「お、やっと下りてきたか。それにしてもお前、ユルユルに頬が緩んでるな。何かいいことでもあったのか? ……もしかして、好きな娘に告ってOKもらえたか?」

「そ、そんなぁ——」

 さっきのドキドキがぶりかえして、顔が熱くなってきた。

「——単にドキドキしてワクワクして、ウキウキになってたら、かあさんが来たんだよ」

「……ふーん、それって『恋のオノマトペ』?」

 かあさんが頬杖付いてにっこりと笑う。

 ぼくはぽっぽとなっている頬を押さえたままだった。

 とうさんがニヤリと笑って言った。

「いいや、そんなのはわざとらしくオノマトペを並べただけだ。言うなれば『故意にオノマトペ』ってところだな」

 そう言って、とうさんは「がはは」と笑い始める。

 ちぇっ、コテコテの親父ギャグかよ……。


              (了)


オリジナル:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885374746/episodes/1177354054885392094

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