短編リライトの会参加作品
馬田ふらい
オリジナル作品
恋のオノマトペ?
カリカリ悩む。ウンウン唸る。カチカチ、黒芯は臆病に首を伸ばし、コンと机に叩きつけられて縮こまる。最初は消しゴムを使ってたのが、一枚目が黒ずんでボロボロになってから紙をぐしゃぐしゃびりびり、思うまま皺だらけのヒビだらけにするとポイ投げする。
朝からずっと、ぐるぐるこういう動作の繰り返し。
カーテンがはらりと額に触れる。
手元に朱色がスッと射し込む。
はっとして窓の外を覗くと、一棟の黒い
ぼーっとそれを眺めていると、なんだかムカムカなってきて、慌てて手紙に戻ったけれど、言葉にするため頭の中で、あの娘のてくてく、ばたばた、にっこり、あははを思い出すたび、やんちゃな夕日は心臓の壁をガンガンバシバシ強めになぐる。
何を書けばいいか、彼女のどこがいいか、ウンウンと強く考えるほど、むすっと硬派な理性とメラメラと高温の本能との葛藤は苛烈になり、結果としてペンの手でわしゃわしゃと髪を揉みしだいて、逆の手はいつのまにか椅子に乗った片足の脛をぐるりと抱いて、他方もう片足はといえば座面の裏側からぎゅうっと圧力をかけており、そこには製造不良の繭のような造形物が出来上がったのだった。
気恥ずかしさと臆病でがちがちに強張った外套の中、ばくばくどどど、鼓動は急ぐ。やがてもぞもぞぶるぶる悶えて、がたがたぐらりと椅子が滑って、ばたんがっしゃんごろんと倒れる。
その弾みで繭はばらばらと崩れ始め、それに従い身体も勝手に動いて、机に便箋をぐしゃぐしゃびりびりばりばりもぎもぎがすがすのくちゃらけちゃらにして、ばあっと天井めがけて投げ、紙吹雪がはらはらと散る。
窓の外の爆弾はついにどかんと爆発し、巨塔の陰はゆるゆるばらばらになる。繭は解かれる。すると、あの娘の面影が不意に浮かんで、次の瞬間、
ぐちゃぐちゃ、どろどろ、ぐるぐる、きらきら、てかてか、ぴかぴか、ぽかぽか、ゆらゆら、めらめら、ぼうぼう、むかむか、ぴきぴき、ぷんすかぷん、ぷつりぷつり、ぎざぎざ、がくがく、びりびり、ばくばく、ぶるぶる、がたがた、ひやひや、しょんぼり、どんより、えーんえーん、ばりばり、しゃきしゃき、めりめり、さすさす、すちゃなせむちゃな、のんべれだんべれ、ぴゃもやろしゃろやも、
な感情に支配された。すなわち全宇宙のかたち、ようす、おと、うごき、もがきを凝縮したような、名状しがたき精神状態にあった。
熱いお茶をちびちび飲んで、ほっと一息ついて、散り散りになった手紙のこととか、あの娘のこととかを考えていると、ポロロと着信音が突然鳴って、あたふた掴んでうわずった敬語で答えて、あの娘にうふふと笑われた。
カーテンがふわりと頬を掠めたので窓に目を遣る。夕日は既に堕ち、すっかり鎮火した紺碧の空に生まれたての月がぽっかり浮かんでいた。まだ通話は続いている。
「あのさ。」
ぼくは落ち着き払った声で、ぐるぐる、もぞもぞ、ぽかぽかな繭の中の感情を吐露した。
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