ハレンチ学園演劇部オーディション(原著:青瓢箪さん)

 私が珍しく映画館の扉をくぐったのは、私の心の拠り所と言える「ERIKA」の反省……いや、半生を綴った自伝、『刹那的女優 ERIKA の半生〜だから私は彼の言葉に応え続けた〜』が映画化されたからだ。

 その自伝によれば、中学時代も演劇では少々才能のある少女だったのが、高校時代の演劇部の活動でめきめき頭角を現し、ついには世界中を席捲、カーネギー・ホールでの公演にまで到った——

 本当に素晴らしい自伝だ。この本によって、私は自らの夢と勇気を持ち続けられたのだ。

 この自伝の凄いところは矢張、そのインパクト。通常、構成を考えれば、クライマックスと言える部分は中盤から後半に訪れるものが多い。しかし、この自伝はその常識さえ打ち破った。のっけからクライマックスなのだ。ある意味、これが全てと言っても過言ではないだろう。

 自伝の序盤——つまりはERIKAの若かりし頃が書かれている部分。彼女が高校に入学して、運命の人たる鈴木監督と邂逅し、次々と演技力を開花させていく——このシーンは今も脳裏に焼き付いて離れない。

 私は、今でも空でERIKAの言葉が言えるほど読み込んだ。

 そんな私の聖書バイブルといえるものが映画化されたのだ、見ない訳にはいかない。しかし、悲しいかな、仕事が忙しくまったく休みを取ることが出来なくて、公開から一ヶ月経った今、やっと観る時間を作ることが出来たのだ。

 ただ——気になることがあった。

 それはこの映画の評判が思わしくないことだ。

 あの『刹那的女優 ERIKA の半生〜だから私は彼の言葉に応え続けた〜』の映画化だ、評価が真っ二つに割れるのは仕方がないとは思う。しかし、この原書は未だにロングセラーを続けている。少なくとも、意見は半々になってもいいのではなかろうか。しかし、インターネット上を始め、肯定的な意見は一つも見たことがない。

 一つ断っておくが、私は映画の内容が知れるような所謂「ネタバレ」サイトや内容が記されている映画雑誌などは見ていない。自身の心眼しんがん真贋しんがんを見極めたいのだ。


 上映のブザーが鳴った。

 ゴクリと唾を飲み込む。

 スクリーン前の緞帳が上がった。一気に明るくなる画面。映画会社のロゴ。そして、タイトル。


『ERIKA』


 このタイトル文字はERIKA本人の直筆だという。

 この辺りは気合いが入っている。……よし、第一関門はクリアと言ったところか。

 最初ハナからクライマックスといえる、演劇部オーディションか。

 ……ふむ、中々いいじゃないか。カメラワークも悪くないし、演出も力が入っているのが分かる。

 手始めの第一の試煉——


『ミレー作 チン毛拾い』


 言葉が出なかった。

 続いて、第二の試煉——


『パコ太郎作 ペンPおっぱいP恥部アップAペン


 私は震えていた。

 そして、最終試煉——


『太郎くん と 花子さんの 手による生殖行動』


 私はわなわなと震えが止まらないまま、すっくと立ち上がっていた。

 後で聞いた話だが、このときの私は「背中まで紅蓮の炎を纏った仁王に見えた」、そうである。

 怒髪天に達するとは正にこのことだ。確かに映画の評判が思わしくないのは間違いなかった。

 スクリーンに映された試煉のシーン——そのいずれもが、モザイクで覆われていた。特に、最終試煉は画面一杯のモザイクで何が何だか分からなかったのである。

 私は大股でホールを出た。

 出た途端、数名の黒服が私を取り囲む。

「すぐに緊急動議だ。官邸に大臣連中を集めよ! ……議題は芸術表現の規制緩和だ! ……何をしてる! 急ぎ給え!」

「し、しかし、総理!」

「ぐずぐずするな!」

 ここまで見えないのがもどかしいとは。だが、この規制緩和が簡単に通るとは思えない。野党はおろか、与党内からも反対は出るだろう。

 しかし、それくらいで諦める私ではない。

 私の勇気、行動力、胆力——これらは全て、『刹那的女優 ERIKA の半生〜だから私は彼の言葉に応え続けた〜』から与えられたものだからだ!


             (了)


オリジナル:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885027194/episodes/1177354054885027198

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