夏祭り(原著:流々(るる)さん)

『——きーみーがー いた なーつーは——』

 有線放送から流れてきたのは JITTERIN'JINN の名曲、「夏祭り」だ。この時期にゃ定番の曲だ。何故か知らんが、隣のじいさんなんかは Whiteberry の「夏祭り」を推しやがるが、何言ってンだ、「夏祭り」といやぁ、コッチの方が元祖で定番だ。年相応に JITTERIN'JINN を聞きゃいいんだよ。

 しっとりしたオープニングから、パンチの効いたドラムとそれに乗っかるリフに合わせて、俺の身体もリズムに乗り始める。

 ウッヒョー! 盛り上がってきやがった!

 だが、もっといい曲がある。

 それは美空ひばりの「お祭りマンボ」だ。

 古い唄かもしれないが、祭りに参加するおっさんやおばはんの姿を克明に唄ってるんだぜ? それが上手いのなんの!

 俺なんか、イントロがかかっただけで小躍りしちまう。

 やっぱり、祭りは自分が参加してこそだ。

 俺 Love 祭り!

 俺は祭りが好きだ。誰が何と言おうと、祭りが好きだ。新年祭が好きだ。祈年祭が好きだ。収穫祭が好きだ。大漁祭が好きだ。祈願祭が好きだ。地鎮祭が好きだ。慰霊祭が好きだ。謝肉祭が好きだ。産業祭が好きだ。体育祭が好きだ。文化祭が好きだ。学園祭が好きだ。中でも地元の夏祭りが大好きだっ!

 そんなこと考えてたら、神輿が担ぎたくなってききやがった。

 あー、担ぎてぇ!

 本番は明日。念願の神輿巡業だ。

 一ヶ月以上も前から準備してきたんだ。本番が待ち遠しいったらありゃしねぇ!

 おっと、新入りの慎二くんにも連絡しておかねぇとな。

 慎二くんはそこの新築マンションに引っ越してきた若者で、「神輿を担いでみたい!」とむつみに参加した、将来有望な奴だ。

 彼は神輿とは全く縁のない生活を送ってたみたいで、祭りと言えば縁日の水あめ位の印象しかない、と言っていた。

 そんなが藪から棒に睦に参加するってのもぶっ飛んでる気がするが、じいさん連中からは「若いもん、ウエルカム!」的なノリで温かく迎えられた。

 将来有望だし、性格も良し、人当たりも上々とくりゃぁ、目を掛けねぇ訳にもいかねぇからな。


                 ◇


 おうおう、楽しそうに担いでるじゃねぇか! いいぞ、いい感じじゃねぇか!

 ……ちょいと身体が窮屈そうだが、その身長じゃしかたねぇか。もっと声出せ! 景気を付けろ! 塩撒いておくれってなもんだ!

 バカヤロ、「わっしょい」じゃねぇ、「セイヤーッ」だろ?

 よぉーし、あと一踏ん張りだ! もう一丁気合い入れろ! そーれ、それそれ!——


 神輿巡業は大盛り上がりで派手に終わった。まだまだ行ける気もするが、ここは腹八分目ってところがいいんだよな。余韻を楽しむって奴だ。

 そんな気分の鉢洗はちあらいの席でも、期待の新人、慎二くんの活躍が話題となった。

「やっぱりデカいから、担ぐのは大変そうだなぁ。……身長、いくつだ?」

「一九二センチです。キツかったし、体中痛いけど、楽しかったっす。来年も頑張ります!」

「いい心がけだねぇ! よーし、呑め呑め!」

 人気者の慎二くんは方々から酌をされ、ほろ酔い気分だ。

 俺はと言えば、いい感じにデキ上がっちまって、慎二くんに寄り掛かりながらのご帰宅となった。

 慎二くんは俺をカミさんに引き渡すと、いつもの腰の低さでカミさんに挨拶をする。

「今日はお世話になりました!」

「慎二くん、ありがとね。ウチの宿六が迷惑掛けたんじゃないのかい?」

 慎二くんは「いえ、そんな」と、酔ってるんだか照れてるんだが分からない赤い顔で家路についた。

 俺は玄関で大の字を書いていた。

「早く中に入っとくれよ! 風邪引いちまうよ? ……でもアンタ、慎二くんがいてくれたおかげで、だいぶ助かったんじゃないかい?」

「べらんめえ、七十過ぎのじいさん達と一緒にすんな! 俺は——」

 とんでもねぇことを抜かすカミさんぬかみそに文句を言おうと跳ね起きてみたんだが——

 額から背中から脂汗が滲んで来やがる。酔いも何処かに吹っ飛んだ。

 カミさんぬかみそが憐れみの目を向けた。

「ほーれ、言わんこっちゃない。六十八のジジイ予備軍がいきがるんじゃないよ! 今更ぎっくり腰を後悔しても、後の祭りだよ!」


              (了)


オリジナル:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885332628/episodes/1177354054885332629

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