Change Only The Way,You See It(原著:ユキガミ シガさん)

「——まったく、お前たちはどんだけ仲がいいんだ? いくら幼馴染みとは言え、揃って俺の授業で居眠りこいてるなんざぁ、早々ないだろ? ……アレか? 『今夜は寝かさないぜ!』状態だったとか——」

 我ながら下卑た笑いを浮かべているんだろうな、等とは思いつつ、この仲良し幼馴染みコンビを正座させ、弄り倒して小一時間。

 流石にこっちも飽きてきたし、疲れてきた。奴等の足もビリビリだろう。

 そんじゃま、解放してやろう、と思うも、そのまま返すのもアレだ。

「よーし、お前ら、罰として書道部室の掃除だ。しっかりやれよ? 二人きりだからと言って——」

「お言葉ですが先生、俺たちはそんな関係じゃないです!」

 今までの暴言を取り消せと言わんばかりに男子生徒——要類かなめるいが睨みを効かせて割り込んできた。

「全くです! ……どーして私の居眠りにこんなのがシンクロしちゃうかなー」

半分俺を見て、半分相方とも言える要の方を見ている女子——大嶋数唯おおしまかずいが膨れっ面になる。

「俺がシンクロしてんじゃねぇ! お前が俺にシンクロしてんだよっ!」

「あー! よく言ってくれちゃってぇ! 大体アンタが——」

 まーた始まったよ。

 俺はこいつ等の担任じゃないが、担任の菅谷が「犬も喰わない」って言うのが分かる気がする。残念ながら、俺もそんな消化不良起こしそうなのを喰らい続けるつもりもない。

「分かった分かった。これ以上続けるなら、書道部の隣の文芸部の掃除もやってもらうが——どうだ、引き受けるか?」

 揃って、ぴたりと黙り込んだ。


 俺は書道部の顧問をしている。とは言え、習字が好きな訳でもないし、上手い字を書く訳でもない。単に楽だからってことで引き受けたに過ぎない。実際、静かな部室で居眠りするのが、俺の顧問としての仕事だ。

 だが、その書道部が大変なことになった。副部長の島津真由美が季節外れのインフルエンザに罹ったのを皮切りに、一人二人と蔓延し、今日になって最後の七人目がぶっ倒れてしまった。顧問の俺が無事なのが不思議なくらいだが、俺とて明日には発症するかもしれん。

 そんな訳であの二人に掃除を頼んだんだが——

「……ふむ。まずは、喉をいぶしてインフルエンザウイルスを叩くとするか」

 単なる言い訳と言われかねないが、その通りだ。禁煙嫌煙のご時世だから、職員室で煙草ふかすような大物教師はもういない。俺はヘビースモーカーではないが、喫煙いたいときは喫煙いたいものだ。そんなときは中庭の池の縁にある木陰で隠れて喫煙うことにしている。……まったく高校教師ならぬ高校生並みの行動だ。

「ふぁあ……」

 思わず出た大欠伸に、薫らせた紫煙が混ざって秋空に溶けていく。

 だがしかし、至福のひとときが情け無用で台無しになった——俺のほぼ真上から素っ頓狂な叫び声が転げ落ち、消えゆく紫煙を眺める視線に、飛び入りが舞い込んできたのだ。

「——?」

 ふわりふわりと舞ったそれは、何やら文字の書かれた半紙。……そういや、ここの上は書道部だったか。

「やっば!」

「バカ数唯! いきなり窓開けんなって言ったろが!」

「だって、墨ってイカ臭いんだもん!」

 ……またあいつ等か。よくもまぁ、イベントが尽きないもんだ。

 どうやら、掃除の為に窓を開け、その途端に半紙が風に吹かれてサヨウナラってか。ボブ・ディランも真っ青だ。で、哀れ部員の作品が……ってありゃ練習用の奴か。

 そこまでを見届けて、俺は校舎の影に身を潜めた。

「あちゃー」

 声をあげたのは大嶋だ。要の方は苦虫を噛み潰したような面持ちになっている。揃って、入水自殺した練習作品まがいものに、名状しがたい色の瞳を向けて半ばボーゼン自失だ。

「類、どーしよ……」

みるみる青くなる大嶋に要が肩を叩く。

「事故だ事故! とにかく、この作品の作者探して平身低頭だ。それくらいしか出来んだろ? ……にしても、手掛かりが『去』だけかよ……」

 要と大嶋がまたも揃ってうんうん唸りながら、半身のなくなった半紙を手に校舎の中へと消えていく。

 面白くなってきやがった——俺は半ばスキップを踏むように二人の後を着けることにした。


 結論から言えば、この二人は見事に作者を特定した。これに関しては手放しで褒めるしかない。あとは、どう動くかだが——

「数唯、やっぱ正直に言おうぜ? んで、くだんの作者の住所訊いて謝りに行くぞ。……怒られるかもしれんが、いいか?」

「しゃーないでしょ? 私が原因と言えば原因だし」

 仏頂面の要に、あっけらかんと大嶋が伸びをしながら答える。

 ——ふむ、潔し!

 まぁ、練習作品だ。謝る必要もない。大体、書いた本人すら忘れているに違いないからな。顧問権限で不問にしてやろう。

 俺は開けっ放しになっていた引き戸をノックした。

「——お前等、掃除は終わったのか?」


               (了)


オリジナル:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885348172/episodes/1177354054885348219

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます