そうか、これが(原著:新吉さん)

「ぐふふ……ぐふふふ……ふはははは、ふははははははぁぁぁ!」

 片目に眼帯を掛けた七三が狂喜に踊っていた。

 それを目にした小太りな男。然程大きくない目をまん丸にして眺めている。

「どうしたんスか、博士!」

「おお、我が助手よ! 小生は遂に、人類をグータラにし尽くす発明をしたのだ! これさえあれば……これさえあれば世界経済は停滞し、世の中は混乱の極みとなるのだ!」

 まーた始まったとばかりに、小太りの助手が疑いの眼差しを投げかける。

「むむ、信用してないな。……よかろう、研究の成果を見せてやる。……見て驚くな? ……これだっ!」

 眼帯の博士が壁際のレバーをガクンと落とす。瞬時に奥の一部分がスポットライトを浴びる。

「……なんスか? これ? テーブルの枠じゃないんスか?」

 スポットライトの中心には確かにテーブルのような物があった。ただし、天板がない。その代わりに格子状になっていて、その真ん中に何やら括り付けてある。そこから電源テーブルが伸びていた。

「断じてテーブルではない。だが、テーブルの役目も果たす。真ん中にあるのは四基のドライヤーだ」

「……はぁ」

「まぁ、これだけでは分からんか。……この上に布団を載せて……だ。ほれ、そこに足を突っ込んでみろ。……よぅし、スイッチオン」

「うぉぉー! あったかいっス!」

「だろ? ……ふふふ、これは小生の自信作だ。寒いときにこの中に入ると、ほっこり気分になって、身体もぽかぽかになってくるだろう? そして、眠りにいざなわれていく。……ふふふ、お前ももう、ここから出たくないはずだ。みながこうなれば、生産性ががた落ちになるのは火を見るより明らかだ」

 博士は自らの理論にうんうんと頷くが、助手の方はそれを憐れみの視線で受け止めていた。

「……あのー、博士。非常に申し上げ難いんスが、これと似たような物が極東の島国にあったっス。……たしか『コタツ』だか『おこた』だか……」

「何だとぉ! おのれ、グータラ島国め! ……だがな、それだけじゃない。これに更にプラスアルファして考えるところが小生の理論だ。1+1=2ではなく、それを3とか4とか♀とか‡とかにするのが小生の凄いところなのだ!」

「……」

 既に物言う気力も失せたのか、助手は溜息を漏らすばかりだ。

 博士は脇から何やら持ち出し、熱風密封卓袱台こたつの上に置いた。

 助手が怪訝そうにその名を呟いた。

「……ポットっスか?」

「その通り」

「で、博士。そのポットの何処が発明なんスか?」

「わかっとらんな、お前は。発明ではない。新たな理論と言っただろが。仕方がない、説明してやる。……この熱風密封卓袱台こたつに入る。すると、出たくなくなる。しかし、だ。人間は腹も減るし、喉も渇く。そんなときにだ、このポットがこの上にあればどうなる? お湯、入れホーダイだぞ? 入れホーダイ! ……紅茶だろが、コーヒーだろが、カップ麺だろが、何でもござれだ!」

「……つまり、ここから出る理由が減ると言いたい訳っスね?」

「そうそう、その通りだよ! 更にはミカンなんか置かれていれば完璧に近い!」

「でも博士、しもの方はどーするっスか? まさか、お漏らしする訳にも——」

「この、スカターン!」

 博士はいつの間にか丸め持っていた新聞で助手の頭を引っぱたいていた。

「……何するんスか」

「まったく、この食っちゃ寝ブタが! 喰うこととションベン垂れることしか能がないのか!」

「博士こそ、毎朝ウンコひり出してるじゃないスか!」

 熱風密封卓袱台こたつに入りつつも、睨み合う二人。

 が、ここは博士の方が折れた。

「……ま、ここはお前の勝ちにしてやんよ! ……まぁ、着眼点がいいから、その案採用しちゃる」

 博士がこのように助手のアイデアを掻っ攫うのは日常茶飯事である。助手があーだこーだ言ったところで、「小生は知らんけんシュタイン」とか言って煙に巻くのが関の山である。

 はっと気付いたように助手が追い打ちを掛けていた。

「……博士、これって夏の間は使わないっスよね? で、地球の半分は冬っスけど、後の半分は夏っスよ?」

 博士の顔が赤くなっていく。

「だ、だめだ。お前は小生をダメにする!」


               (了)


オリジナル:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885337326/episodes/1177354054885337347

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