第11話 ホウ・レン・ソウ? (その三)

 前回同様に、すずりは縄文様への報告には来ない。

 ちぎるだけが協会本部へ向かった。

 

「……という事情で、今回はダメでした。ですが、依り代になれそうなモノは他にも幾つか見つけてありますから、その中のうちのどれかはきっと……」


 ちぎるの報告を聞いた縄文は、落ち込んでいるような表情。

 付喪神を増やせなかったせいかとちぎるの目には映った。

 ため息をひとつついてから、縄文は言いづらそうに口を開く。


「いいのだ、ちぎる。おまえが頑張ってくれたのはよく判っている。それに……」

「どうかしましたか? 縄文様」


 言葉からも様子からも、縄文が落ち込んでいるとちぎるにはわかる。

 付喪神を増やせなかったせいかと思ったが、どうやらそうではないようだ。


「天照様からな、ご指示があったのだ」

「えーと、どういうご指示が?」

「この数ヶ月だけで付喪神が二人増えただろう?」

「はい。何とか……」

「神が短期間にそう簡単に増えるのは好ましくないというんだ」

「え?」

「それでだな。こちらから動けば付喪神は増やせると判った。だからしばらく様子を見ろというのだ」

「それは何のためにですか?」

「持ち主が捨てたりせず生きている間は、依り代となったモノはモノのままだろう?」

「はい、持ち主に迷惑をかけないという条件でしたので……」

「見た目も使用感もモノのままだが、付喪ベビーが憑依しているのは間違いない」

「その通りです」


 そんな当然のことを、何を今更とちぎるは確認したかった。

 だが、ちぎるが口を挟む前に、縄文は俯きながらも話を続けた。


「人に使われる影響が付喪ベビーに何かあるかもしれないということだ」

「よく判らないのですが……」

「愛情を持って使ってくれそうな持ち主をおまえは選んでいるはずだ。その愛情が予想通りに良い影響を与えるのか確認しろということだ」

「憑依した付喪ベビーは、意識はないはずですので……」

「だが、感覚はあるだろう?」

「ええ、まあ、付喪ベビーは自分の状況だけは判ると思います。そして、廃棄されたと感じたとき、持ち主が亡くなったと感じたとき、付喪ベビーの意識が表面化します」


 そう。

 依り代の状態を感じることだけは、意識を眠らされている付喪ベビーにもできるようになっている。


「そこだ。感覚には影響がある。それがどうなるかを確かめろということだ」

「では、短期間に付喪神が増えないように調整しつつ、既に憑依させたモノが付喪神になった状態を確認しろと……コーディネーターとしての仕事は当分中断ということですか?」

「ああ、そうだ。付喪神成り上がり計画は頓挫した……」

「何ですか? その成り上がり計画って……」

「ああ、独り言だ。気にする必要は無い。順調に進みすぎたのだ。ちぎるご苦労だった。いつかまたコーディネーターとしての仕事を頼むことになるだろう。それまでのんびり過ごしてくれ」


 急な中断指示にちぎるは驚いた。

 縄文はとても落ち込んでいるようだ。

 だがちぎるは、もう少し続けたかったとは思うけれど、さほどショックでもなかった。

 

 付喪神が増えたからといって、ちぎるに何か良いことがあるわけではない。

 給料が貰えるわけでもないし、数が多くても高天原で有利になるようなこともない。

 さきほどの様子から見て、縄文は何か企んでいたようだけれど、ちぎるにはどうでも良かった。


 それに、すずりを見て、自分にはまだ神としての気遣いができていないとちぎるは感じている。

 すずりの態度が神としての付喪神らしいのかは判らない。

 だが、今の自分よりは神に近いのではないかとちぎるは考えている。


 とりあえず、すずりに連絡し、これからのことを話し合う必要がある。

 

 ――怒るかな? 呆れるかな? それとも無関心かな?


 多分、怒ることはないだろうけれど、すずりの反応がちぎるにはとても気になっていた。

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