第9話 カメラ(その一)
日常的に使われるモノは、この大量生産大量消費の社会ではすぐ捨てられてしまうモノが多い。
つまり持ち主の思い入れが強いモノは現代では昔より圧倒的に少ない傾向にある。
だが、昔より少ないと言っても、珍しいというわけではない。
例えば、仕事や趣味で使うモノであればそれなりにある。
今回、
古いモノではない。
古いどころかとても新しいモノ。
以前の条件なら付喪神などにはなれないモノだ。
だが、持ち主がとても大事に使用し、そして可能な限り持ち歩いているカメラだ。
憑依する予定の、今回の付喪ベビーに適したモノだと
持ち主は高校生の女の子。
今時の女の子の多くはカメラなど持ち歩かない。
一時期、使い捨てカメラが流行り、カメラを持ち歩く女の子は多かった。
でも今ではスマホで十分間に合うから、わざわざ荷物を増やしてまでカメラを使う必要がないのだ。
だけど、その女の子はカメラに拘った。
アルバイトで貯めたお金で、センサーサイズにも拘った一眼レフのデジカメを購入した。
ホワイトでスタイリッシュな形状。
やや重いけれど、その質量感がたまらないと彼女は喜んだ。
ファインダーから見る世界は、自分のためだけに世界が切り取られているようでワクワクした。
クラスメイトからカメラ女子とからかい気味に呼ばれるけれど、女の子にはそんなことはどうでも良かった。
カメラは自分だけの世界を見せてくれる。
それが判らない人達が自分をどう呼ぼうと気にもならない。
こんな楽しい世界が判らないなんて可哀想とすら彼女は思っていた。
彼女はカメラに夢中だった。
どこへ行くにも持ち歩き、足を止めてはファインダーをのぞき込む。
気持ちに響く何かがあればすかさずシャッターボタンを押す。
家に帰って画像を確認し、自分専用のノートパソコンにデータを送る。
撮影場所や、撮影した時の感想を一言メモしてフォルダにしまう。
誰かに褒められる必要もない。
ただ自分自身が素敵だと素晴らしいと感じた瞬間を残せることに幸せを感じていた。
彼女の毎日はカメラと共にあった。
だけど、どんなに大切に使っていても、傷ついたり壊れてしまうことはある。
モノの宿命だから避けられない。
あるとき、彼女の不注意でレンズに傷がついてしまった。
海辺で撮影中に落として岩にぶつけてしまったのだ。
修理はできるけれど、二万円かかるという。
カメラを手にしてからアルバイトの時間を減らしていたから、高校生の彼女には、二万円をすぐには用意できない。バイトの時間を増やせば来月には用意できるけれど、今すぐは無理。
しかし、少しでも早くカメラと共に生活したい彼女は、すぐに修理に出したかった。
修理にかかる日数すら、正直もどかしかったのだ。
だから、来月の給料日まで借りたいと両親に頼んだ。
けれど、カメラに夢中で成績にやや陰りが見えていたこともあって、両親から良い返事は返ってこなかった。
これからは勉強も頑張るからと彼女は頼んだ。
だけど、成績があがってからなら信用するけれど、最近の彼女の様子を考えると、カメラを手にしたらまた夢中になってしまうだろうと断られた。
夢中になっているカメラを止めろとは言わないけど、勉強が疎かになるなら手助けはできない、自分の力でなんとかしなさいとも彼女は言われた。
自分の不注意を責め、彼女は落ち込んでいた。
「あなたのカメラを付喪神にしませんか?」
悲しんでいた彼女のところに、
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