第5話 カメオ(その一)
「いいか? 人間との交渉は慎重にしなきゃダメだぞ? 僕たちの仕事に付喪神の未来がかかってると思えって縄文さまも言っていたのを忘れないでくれよ」
ホント頼むよと言う
会う人間に必要以上に怪しまれないよう、いつもの和服じゃなく、現代現世の人間の女の子が一般的に着る濃いグリーンのワンピースを
憑依物候補の持ち主と会うのだからと、
本当は、もっと動きやすく、フリルなどさほど着いていない服装にして欲しかったが、
「そう何度もしつこく言わなくても判ってる。それより、
「は? 何でさ」
「あなたがしなかったら他に誰がするのよ。そんなこと言われる前に判らないなんて、あなたって馬鹿なのね」
「……馬鹿?」
「間抜けでもいいわよ?」
ここで怒ったら負けだと
これから憑依候補のモノを持つ人間と会うのだから、落ち着かなければとも思っていた。
「さ、気が済んだかい? 行くよ」
フンッと
「どちら様?」とスピーカーから女性の声がした。
「先日もお伺いしました。付喪神コーディネーターの
「はい」という返事とインターホンが切れた音が聞こえる。
「きちんと正面から会うのね」
「ここはもう三度目だから。他のところは玄関から入らないことの方が多いよ」
玄関の鍵が開けられて音がしたあと扉が開く。
「いらっしゃい。あら、今日はガールフレンドも一緒なのね。その子も付喪神なの?」
「こんにちわ。ガールフレンドじゃありません」
「初めまして。私は真・付喪神コーディネーターの
真・付喪神コーディネーターって何だよと、
だが、持ち主の前ということを忘れず、言いそうになった文句を飲み込んだ。
「そう、可愛らしい子ね。入って頂戴」
・・・・・
・・・
・
「あら? この紅茶美味しい」
持ち主の女性が淹れてくれた紅茶を一口含んだ
「あの、カメオを付喪神にする件なんですが、考えていただけましたでしょうか?」
「そうねぇ。まだ決めかねているわ」
「そうですかぁ……ですが、付喪ベビーを憑依させておくと、細かい傷やちょっとした破損程度なら自然に修復するのでお得だと思うのですが……」
「でもね? 私が生きているうちは単なるモノと変わらないと言われても、霊が取り憑いているというのは気持ち悪いわ」
「そういうものでしょうか……」
「気持ち悪いとは聞き捨てならないですわ!」
ティーカップを手にした
クワッと目を見開いて、「おい!」と制止しようとする
「あなたはご存じないのでしょうけれど、あなたの持ち物のいくつかには既に霊が憑いてますのよ。それら全て捨てられますの?」
「どういうことなの?」
「人間が作る物には、作った人間の思いが大なり小なり込められているのはご存じでしょう? その思いに惹かれて霊は憑くのです。まあ、憑いていると言っても、付喪神のように意思ある存在ではないけれど……」
「作った人間の思いだけでなく、持ち主の思いが強く込められたモノは付喪神となる資格を持ちます。あなたが大切に思うモノは、余程のことが無い限り永遠に残るのです。それは持ち主にとって素晴らしいことなんじゃなくって?」
「お嬢さんはプライドが高いのね」
「ええ、付喪神として誇りを持っていますもの」
「あなたを見ていると、ちょっと前の私を思い出すわ」
ここだ、ここで
「
「そうね。どことなく似ていたと思うわ。自分に誇りを持っていて、怖い物知らずなところがあって……あなたが付喪神にしたがっているこのカメオも、その当時の私がモチーフなの……」
綺麗な女性が白く浮き彫りされたオレンジのシェルカメオのブローチ。
持ち主の女性は確かに美しいが、カメオのモチーフ当人だとは、カメオが見た情景をまだ確認していない
「少しお時間はあるかしら? 私の思い出話に付き合ってくださらない?」
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