恋のオノマトペ?(原著者:雨天荒さん)

 ら。楽な恋なんかない。


 いらいらして悩みは増える。のどはからから頭はくらくら。しゃーぺんの尻をオラオラすれば芯がすらすら出てくるけれど、脳みそはすっかり茹ってふらふらだ。力入れすぎて消しゴムばらばら。紙は袖で擦れててらてら。紙よりぺらぺらなセリフを書いちゃって、もうだらだら。こういうのをさらさら書けるやつがうらやましい。

 乱暴にお団子にした書き損じを、床にポイ投げする。朝からずっと同じことの繰り返し。自分でも思うよ。こらこら、何やってんだよって。



 り。理屈で恋なんかできない。


 カーテンがすりすりと額に触れる。手元に朱色がきらりと射し込む。ぽりぽり背を掻きながら窓の外を覗くと、理性を失った癇癪玉がじりじりと全てを焼き焦がす。差し込む光が僕の目をぐりぐり押し込んで、のけぞった僕の脳裏まであぶられちゃってぱりぱりだ。

 ぼんやりそれを眺めていたら、いきなり気分がひりひりしてきて、慌てて手紙に逆戻り。どんな言葉もすんなり収まらなくて、字にするたびにめりめり悲鳴を上げる。彼女の姿があっちにちらり、こっちにほらり。そんなの理屈じゃないでしょ? ひらりひらりと僕の前で踊りながら無理を言う。



 る。留守番なんか恋にはない。


 ルックスに恋してるわけじゃない。うるうる瞳でるんるんしてる姿はいいなと思うけど。気持ちがうまく形にならなくて、全てがずるずる足引っ張って、ぐるぐる絡まり合って、繭になる。本当に、何を書いてもくるくる空回る。理性だけを留守番に置いてって、心は彼女に飛ばしたい。

 でも、僕はぶるぶる首を振る。何もかもが彼女に引っ張られる。心に留守番は出来ないんだ。彼女の顔を思い浮かべた僕の口元はゆるゆるになり、ぷるぷるな彼女の頬がみるみる僕の目の前に迫る。だめだ。筆がだるだるだ。



 れ。連絡取れれば恋になるかも。


 零点。僕のアプローチはずれずれだ。紙にどんな気持ちを擦り付けても、それはよれよれ。だって、僕の気持ちは言葉に押し込められない。繭があれあれと言う間に裂けて、きれいな言葉も無礼な言葉もヤバさすれすれで弾け飛ぶ。

 くれくれと言ってるのは僕だけ? どれどれってこっち見てくれないの? だれだれって言われるだけかな。いや……きっと僕の哀れな姿は彼女にばればれなんだろう。それって、連絡待ってるってこと? あれれ?



 ろ。論より証拠の恋だった。


 当たってくだけろ。そうだろ。見ろ。あれだけのたうって、残ったのはぼろぼろの紙だけだろ。じろじろ見ていた紙団子。解いて、裂いて、紙吹雪。僕だけがうろうろしててもだめなんだろ。白黒つけたいなら、がんばろ。そう思って、スマホを握ったら、ぽろろろと着信。あのだ! 思わず敬語で答えちゃって、なんやろってころころ笑われた。

 カーテンがぺろぺろと頬を舐めたので窓に目を遣る。いろいろあったのを引き連れて夕日が自爆し、紺碧のうろには生まれたての月が浮かんでた。まだ通話は続いてる。さ、そろそろ。


「あのさ」


 ぼくは落ち着き払った声で、らりるれろだった繭の中の感情を吐露した。


「わがままかもしれへんけど、わかってほしい。僕の気持ちを。『ん』で終わらせたないんや」



【おしまい】


 原典 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885374746/episodes/1177354054885392094

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