試された大地(原作:大地 鷲)

『札幌壊滅』

 その四文字が、瓦礫の原となった札幌の空撮写真とともに、新聞の一面を飾ったのは、災害から、実に二日後のことであった。


 時間が掛かったのには、理由がある。このようなことになっているなど、誰も知らなかったのだ。

 異変はまず、通信障害として現れた。札幌へ、及び札幌を経由した通信が不可能になった。

 しかしながら、一時的なもの、すぐに札幌で対処され復活すると考えられた。


 半日が経過し、日付がかわっても、通信は途絶えたまま。そこでようやく、政府は重い腰を上げた。

 青森県から自衛隊が状況確認として派遣され、そして、事態が認識された。


 何が起きたのかを確認しようにも、困難を極めた。

 目撃者は全て、災害に巻き込まれ、この世に残っていなかった。

 災害から逃れた地の住人から話を聞いても、全くわからない。彼らですら、このようなことになっているなど、知らなかった。


 得られた証言のうち、有効であると考えられたのは、「強い風が吹いた」ただそれだけであった。



 テレビを点ければ、どの局も札幌の災害のことを報じている。

 そうそう新しいことがわかるわけでもなく、同じこと、同じ説明の繰り返し。

 コメンテーターとは名ばかりのタレントが、好き勝手に持論を述べる。


「新しい情報が入りました」

 アナウンサーがスタッフから紙を受け取り、読み上げる。

「政府発表によりますと、この災害での死者、行方不明者は合わせて五百六万八千二百九十五人。繰り返します。札幌災害での死者、行方不明者は合わせて五百六万八千二百九十五人」

 その数に、スタジオがどよめいた。


「この数、どうお考えになりますか」

 アナウンサーが、解説として呼ばれていたどこぞの大学の教授に振る。

「そうですね。道内からの人口流入に加え、北広島、恵庭、千歳、江別、当別など近隣を併合し、その人口は五百万に届くかと言われていました」

 用意された北海道の地図を示しながら、説明をする。

「そこに今回は、週末の昼過ぎですから、観光客も多かったことでしょう。政府としては、その時札幌にいたと思われる全員を死者、行方不明者として数えるしかなかったのでしょう。北海道の人口の実に七割以上が失われた計算になります」


「その日、札幌から出かけていた人もいますよね?」

 タレントの一人が尋ねた。

「当然、いるでしょう。ですが、その数以上に、札幌へ来ていた人が多かった、ということでしょう」

 なるほどと、尋ねたタレントが頷いた。


 それから、話題は何が起こったのかという答えの出ない、既に何度も繰り返されている問答に移った。

 どこぞの国のミサイルだと言う者がいる。隕石だと言う者がいる。反物質やプラズマ現象、或いは超小型ブラックホールの通過……等など多種多様な仮説が飛び交った。

 けれども、どのような仮説も、それを立証する証拠はなかった。



 幾らかの年月が流れたが、札幌大災害の原因はわからぬまま、それを癒やす術もわからぬままであった。

 その傷跡は、あまりにも深かった。


 いつしか、「北海道は『試された』のだ」と囁かれるようになった。

 運命が北海道を試している、このまま滅びていくのか、不死鳥のごとく立ち上がるのか。

 今は試練の時なのだと。


 その昔、『試される大地』というキャッチフレーズが使用されていた。

 北海道のイメージアップのための、「自らに問う」「挑戦する」という意味を込めた言葉だった。


 今再び、その言葉が甦った。

 もう一度、北の大地に栄華を取り戻すために。



---

原文:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885337023/episodes/1177354054885337035

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る