孤高の人だと思う

 山崎は不思議な男だ、と敷島は思う。

 会社内での交友関係はとにかく少ない。

 ぼっちではあるけれど、いじめられっ子だった人にありがちなおどおどした気配もない。

 仕事の話はきちんと出来るし、営業成績だって悪くはない。特によくもないけれど。

 積極的に飲み会に出ることはないけれど、歓送迎会には顔を出すし、接待もそつなくこなしていると聞く。

 もっとも数少ないそんな場でもプライベートな話はしないようで、営業部の知己をたどって探ってみても、彼女はいるのか? どんな趣味を持っているのか? 休日はどう過ごしているのか? そんな情報はまったく聞こえてこなかった。


 同期の木村が言うには、残業も少ないという話。

 何かのめり込んでいる趣味でもあるのだろうか。


 独りでいることの楽しさを知っている人、みたいだ。

 群れない孤高の人という感じがする。


 もしも山崎が思った通りの人柄だとしたら……、自分のような騒がしい人間が彼の生活を引っ掻き回すのは迷惑なのかもしれない、と敷島は思う。

 見合いで結婚でもしたら、いい夫、いいお父さんになりそうだけれど、その隣にいるのは自分よりも物静かな女性が似合うのではないだろうか? 木村にそう相談したら、


「今どきお見合いなんて都市伝説だし。そんなおとなしい同士だったら、知り合ってお互いにいいなって思っても、どっちからも何のアクション起こさないないまま終わってしまいそうね」


 と笑われた。


「付き合うっていうのは互いに影響を与えあうことな訳だし、山崎くんだったらもしも傷つけることになったって、『私が経験値を上げてやったんだ』くらいに思ってあげてもいいくらいじゃない? 結果的に上手くいかなくったって」


 木村は美人なくせにけっこう口が悪いと思う。

 とりあえず、つまりは私が行動を起こさなくては何も始まらないらしい。


 かくして私、敷島はバレンタインデーにチョコレートを渡すというイベントを起こしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る