白い日〜〜ふたつ年下の後輩〜〜

@kuronekoya

「おつきあいを前提に私と友だちになってください」

 山崎はバレンタインデーに、生まれて初めてバラ撒き用の義理チョコではないチョコレートをもらった。


 甘いもの好きの山崎には判る。

 これは、断る時に気を使わせるような高級品ではないけれど、上司へのご機嫌伺いみたいに使われるようなありふれたメーカーのものでもない、知っている人は知っているコストパフォーマンスのいい「美味しいチョコレート」だ。


 ふたつ年上の敷島さん、総務部所属。

 気配りのできるしっかり者、明るく元気でいつも周囲は賑やかな人、という印象。

 山崎に気がある、そんな素振りなど見せたことはなかったはず。

 そもそもあまり話をしたこともないのだ。


 だが、いやいや、待て待て。

「おつきあいを前提に私と友だちになってください」って日本語、ちょっと変だろう?

 おつきあいを断るために、まずは友だちからっていうのが普通の言葉の使い方じゃないか?


 若かりし日の妄想の斜め上を行く、人生初のイベントに固まる山崎。

 そしてそうなるのを見越していたように、


「まずはお友だちからね」


 と、ウィンクするのがまたあざとい敷島さん。


 パンパンと背中を叩かれ、思考停止のまま半ば拉致られるように敷島に連れられて山崎は会社をあとにしたのだった。

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