「宇宙船游灯球操縦マニュアル」

 つくりかけファンタジーの断片です。

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「今日も、夜漂鯨が見つからなかった……」

 捕鯨専門の灯炉舟ランタルアの船長は、ベッドで目を瞑るも、不安でなかなか寝付けない。


 ──夜漂鯨。

 大きな腹部を、蒼白く発光させながら夜を游ぐクジラ。夜闇を白くさらす鯨。


 昔、灯炉舟ランタルアが発明される前の、飛行船を思わせる巨大な体。


 澄んだ碧を湛えて、ふわりと月夜を游ぐさまは、第二の月。



「ひとつ、ふたつ、みっつ……」

 灯炉舟ランタルアの人々は、羊を数えない。羊を知らない。


 いつ食糧が、尽きるのか。

 いつ漂油が、尽きるのか。

 いつ寿命が、尽きるのか。


「百バレルも油が取れれば、最高なのだがな……

 」

 今日も勘定をしながら、船長は夢の底に沈んでいく。


 ■


 この星を、宇宙に浮かぶ舟に例えた思想家がいた。


「大地は、海洋は、例えるなら船内の貯蔵室だった。甲板からパンや灯油がなくなれば、ハッチを開けてそれを好きに取り出せば良かったのだ」


「しかし『悪い魔女』が、貯蔵庫のハッチに南京錠を掛けた」


「だだっ広い甲板に残る乗組員は、ポケットに手を突っ込んでチョコレートを数えはじめる。誰かの鞄に食い物が入ってないかと記憶を探る」


「そんな世界なんだ」


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