文体に惹かれて。筋金入りと書いて、プロと読む。

 今日も小説を書けない。

 とりあえず手持ち無沙汰なので、文庫をパラパラ捲りながら、目を通していく。

 最近は本を買わず、もっぱら昔買った本を読み返している。

 最近は普通に読んでも面白くないので、脳内音声━━黙読中に、頭の中で流れる謎の声━━を、森本レオとか、小倉優子とかのナレーションに置き換え、想像する。

 面白いのは、文体に合わない声だと、読書が全く捗らないこと。普段は、無意識に脳内音声をチューニングしているらしい。器用だ。


 そこで、やっと文体を意識する。文体そのものへの興味を得た。じゃあ僕は、誰の文章が好きのだろうか。


 沢木耕太郎と伊藤計劃だ。


 沢木耕太郎は、ノンフィクション作家。私ノンフィクションという分方法論に挑んでいく。硬派で静謐な文章というイメージがある。自分の文体について語るイメージはあまりないけど、何度も何度も推敲して、紋切り型の言葉を使わないよう気をつけていたらしい。ノンフィクションという性質も相まって発表までに10年掛かったりするもんだから、文章はどんどん洗練されていく。マネをしようと思っても難しそうだ。


 伊藤計劃は、SF作家。長編は二作で、早逝してしまったが、日本SF大賞を取るなど、とてもインパクトのある作家だった。哲学的、思弁的だけど読みやすく、説明しづらいけど、かっこいい文体だった。

 よく調べてみると黒丸尚という翻訳家の文体を真似ているらしい。

 なるほど。本棚を探ると「ニューロマンサー」と「ディファレンス・エンジン」があった。どっちも文体が難しく、読みにくいイメージだった。

 どっちか悩むが「ニューロマンサー」を手に取る。読みにくさを我慢しながら、ページを捲る。すると、うん? やばい、かっこよさが、イメージの奔流が、ルビ使いが。

 感覚的にわかるけどよく分からない、ただカッコいい。そんな独特な印象だった。

 目につくのはルビの多用。漢字にカタカナなんてSFや漫画コミックではわりと昔から当たり前ノーバディ・ダウツの書き方だったようだけど、僕にとって初めて読んだ時ファースト・インパクトはもうね、びっくり。


 凝り性アーティスト

 筋金入りプロ

 仕事ビズ

 独り遊びソリティア


 こういうのも良いけど、千葉チバ浅草アサクサ東京湾トウキョウ・ベイと、日本の地名をことごとくカタカナのルビを振って、「現実の千葉ちばじゃなくて、架空の千葉チバである」という演出をしているのだろうなと考える━━真偽はどうであれ━━と、ルビひとつとっても、文体というモノの面白さを僕は感じる。


 そういえば、意識高い系ビジネス用語とか言われるヤツも嘲笑されがちだけど、積極的に漢字+ルビ方式にすれば、そういう印象が薄れるんではないか。


「それ厳しタイトすぎ。予定アジェンダ確認しろよ。余裕バッファを持たせるのが、基本デフォルトだろうが。ちゃんと重要人物インフルエンサー共有シェア出来てる?」

「いいえ」

「こりゃ、白紙の状態ゼロベースから、再調整リスケだろ」


バジェットがないから、安くて旨いコスパ高い店、予約アポ取って」

「同僚に外注アウトソーシングしてるんで大丈夫です。あいつは凝り性アーティストなんで、こういうの丸投げアサインしても、完璧にやるんすよ」

「たしかに、それは同意アグリーだわ」

「たしか店名は、山猫軒です。そこで良いですか? 開店記念で、いつもよりお得ウィンウィンらしいです」

「そこで確定フィックスでいいよ」


 疲れた。合ってんのかな、これ。

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