第26話 ワレワレハ宇宙人だ!

「何してるんだ、お前ら」

 熟練の体育教官である梶川先生はこの様子にあまり興味がないらしく、忍ばせているたばこを大事そうにさすりながら、教職員室の方へと向かって行った。

 気絶している竹下通をわりと玄関の周りにほん投げておいたので、なだれ込んできた人達に押しつぶされている。パクと彼は苦しくなったのか、目を覚まし、「我は……」と口を開いたので俺は慌てて口を塞いだ。

 さて。

 校庭はどうなっているのか。

 校庭は韮澤さんが一人馬鹿笑いしながら空を見つめている。そして、それに忍び寄る一つの影。

 益子焼さんだ。

 その姿に気が付いた、韮澤さんは運命的な再開を果たしたかのように益子焼さんを眺めた。それは初めて孫を見たときのおじいちゃんのような顔だった。

 音声は聞こえてこない。これは俺の推測だ。でも二人は言葉を交わした。その様子を俺と朱堂とナナと一〇〇人ぐらいの奴らで眺めた。流れ星は明らかに迫ってきている。

「益子焼だな」

「お久しぶりですね」

「結局残るのが君だけとは皮肉だね」

「本当の星好きは私とあなただった、ということですね」

「そのようだな」

「星が来ています。どうされるんですか」

「キャッチするつもりだ」

 なるほど、ノックの練習をしていた野球部の置き忘れたグローブを構えている。なるほどじゃない。あほだ。

「見届けますよ」

 とこれはまあ俺の憶測なんだけど、益子焼さんの口の動きから察するに確かにそう言った。

 でも星は迫っていた。キラキラ光っている。うわー綺麗と言えるほどの余裕がない。東京タワーに登ったわいいがトイレに行きたくて景色どころじゃないという感じだ。

「韮澤さーん逃げてください。お命が心配です」

 芝居がかった演技を一年天文部は見せたが、尻尾巻いて逃げたのはどこのどいつだと俺は尋ねたい。

「あれ……星なのか?」

 野球部のやんちゃそうな奴が野球帽を浅く被りながら空に指をさす。俺達はその指先を一心不乱に見つめる。

 たしかに星なのかと疑いたくなるような物体だ。

 こう絵に描いたような星が迫っている。五角形でピカピカの黄色に輝やている。誰がどう見ても星なのだけど、あんなあからさまな星なんて存在するのか。

「あーあー韮澤さーん」 

 天文部達はバンバンと玄関の扉を叩きながら涙ながらに叫んでいる。少し顔を伺ってみると、もちろん涙は出ていない。わざと砂を目の中に入れて涙を出そうとしている奴すらいる。

 その時だった。

 コツン。

 鈍い音が響く。

「嘘でしょ」

 朱堂のなぜか怒り気味な言葉が響く。

「なんで星が頭に直撃して、コツンって音が鳴るのよ」

 韮澤さんはスローモーションで再生されたかのように倒れ込んだ。益子焼さんはそして叫んだ。

「時は熟した」

 とね。

 

 益子焼さんの絶叫は校庭中に轟いた。

 韮澤さんは倒れている。俺達はただただ口をあんぐりと開けながら何が起こったのか理解しようと必死に頭の中で考えた。

 でも恐ろしい事が起こった。

 韮澤さんに直撃した星は突然浮かび上がったのである。益子焼さんはそれに気が付く様子もなくこちらの方に「私は安全だよー」と言わんばかりに手を振っている。玄関にいる俺達は全員「後ろ、後ろ」と思いっきしのジェスチャーをしたのだ。

 でもそんな必死のジェスチャーを何と勘違いしたか、益子焼さんは紳士のようなお辞儀をひたすら繰り返すばかり。

 やばいのだ。

 星から宇宙人みたいな未確認生命体が出てきたのである。

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祭の夜にコンペイトウは舞う @kikuchikakuyomi

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