始まりの夜


「ハルト、どうでした?」


自分の家の前にアイリがいた。

話を聞くと心配で待っていてくれたようで少し嬉しかった。


「団長に言われたよ。除名だってさ」


まるで笑い話かのように振舞って見たものの、アイリの表情は暗いままだ。


「なんであの人達を逃したのですか?」


ごもっともな質問だ。

アルフレッドにもまだ説明をしていないのは、一番初めにアイリに告げておかなければならないと思ったからだ。


「あれ一度さ、胸に大怪我したじゃん?」

「ええ」


ユキアの魔法で植物のツルが胸に突き刺さった時のことだ。

その際に見た夢のような話をアイリに洗いざらい話した。

謎の海岸。

白髪の少年。

自分でもまだ正直信じられないけど、あれは全て本当にあったことだと確信している。


「あの夢であった少年からこれの使い方を何となく教わってさ。それで今こうして僕は生きてる」「誓約ですか」

「そう。ちょっと前までならお伽話としか思わなかったのに、おかしな話だよ」


誓約の恩恵なんて、お伽話。

しかし、事実として自分の右手にそれはある。

ユキアの話が本当であれば、他にも自分と同じような誓約を持っている人間がいるというではないか。

だったらその人達に会ってみたい。

それでもし、エルフと同等の寿命を持てる恩恵を持っている人に会ってみたい。

一つの大陸に自分と同じように恩恵を持つ誓約を刻んでいる人間は一人いればいいほうとユキアは言っていた。

そういった人達を探すならば世界中を飛び回る必要がある。

どちらにせよ騎士団に所属してたら世界を探し回るなんて芸当ができるはずもない。


「まあどちらにせよ、ユキアの情報が本当だったらって話にはなっちゃうけどね」


これで逃れるための嘘だと言われたら遣る瀬無い。

しかし、その真偽を確かめるためには他大陸に行って見なければ始まらない。


「アイリ、それでこれは相談なんだけど」

「なんですか?」

「僕と一緒に世界を旅しないか?」

「ええ、構わないですよ?」


笑顔で返すアイリの返事に泣きそうになってしまった。

涙目の目をこすり、確認をする。


「そんな簡単に決めちゃっていいの?」

「これでも一応付き合っているわけですし、元々私は流浪人でしたから」

「ありがとうアイリ」


心から感謝をする。

正直、断られたらどうしようと内心ヒヤヒヤだった。


「それでいつ出発するんですか?」

「明日」

「あ、明日!?急にも程がありませんか!?」

「善は急げって言うでしょ。それに僕はそんなに持って行くものもないからね」


そう言って急いで準備をしないととアイリは旅支度のために帰ろうとした。

ふとその後ろ姿に見惚れて勢いに任せて抱きしめる。


「アイリ、好きだ」

「はいはい」


空に流れる赤い流星はまるで二人のために流れているようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は君より先に死なない @Inao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ