元・首無しプレスカブ④ ハンダ付け

 元WBA世界ミドル級チャンピオンの竹原慎二さんのYoutubeチャンネルをご覧になった方は居ますか? 五十歳の竹原さんがヤンキーをボコボコにする動画を見ていて思ったのですが、若いヤンキーは一見よく動いている様だけど、実際はベタ足でドタドタした動きをしています。対する元チャンプ竹原さんは踵を浮かせたステップと言いますかフットワーク。今でも運動をしているでしょうけれど若い頃に身につけた技術は歳を重ねても体が覚えているのでしょう。


「少し違うかもしれませんが『雀百まで踊り忘れず』でしょうか?」


 若い頃に身に付けた技術は頭で忘れていても体が覚えています。それが今回の『ハンダ付け』です。ハンダによって金属同士を繋ぎ合わせる『ろう接』の一種です。一見『溶接』に似ているように見えますが、溶接と違うのはお互いを溶かしてくっつけるのではない点です。ハンダは金属同士を貼り合す糊みたいなものと言えば解りやすいでしょうか? 接着強度は溶接より弱いので、強度がそれほど必要ではない部分に使います。


「ん~? サビ取り剤が漏れてるぞ? ホースに穴が開いたか?」


 前回サビが出ていた燃料タンクに錆取り剤を入れて放置しておきました。再利用の錆取り液とはいえ一週間も有れば錆は除去できるはず。ところがタンクから錆び取り液は流れ出して受け皿に溜まっています。


「ホースは破れてない……かな? もしかして何処かに穴か?」


 先週は燃料タンクの錆とホースの劣化で作業が進みませんでした。今回は錆び取りが完了したタンクを取り付け出来るように新品の燃料ホースを仕入れておいたのですが……。


「タンクの内側から太陽の出ている方向を見ます」


 タンク内部は真っ暗なはずが夜空に輝く一番星の如く光が見えます。これはタンクに穴が開いている証拠です。穴から錆び取り液が漏れてしまったのです。


「燃料タンクは薄い鉄板で作られています。溶接では溶けて穴が広がってしまいます。燃料タンクの補修でメジャーな方法はろう接の一種『ハンダ付け』です」


 幸いな事に電動RCカーを趣味としていた過去を持つ私はハンダ付けセットを持っています。タンクを買うのはお金がかかりますからハンダ付けで穴埋めをしてみましょう。


「駄目でもサビ取りをしてから『タンクシーラー』を流し込めば大丈夫なはずです」


 タンクシーラーはタンク内を耐ガソリン性の塗膜で覆う塗装の一種です。多少のピンホール(小さな穴)なら塞ぐことが可能です。


「タンクシーラーは高価です。タンクの程度次第では新品にしてしまう方が良いかもしれません」


 今回はハンダ付けをしてから錆び取りとコーティングが出来る薬品で処理します。ダメなら中のマシなタンクを買う方向で作業を進めます。とはいえ最近は古いカブの部品は相場が上がっているので買いたくありません。


「まずは中性洗剤で出来る限り洗浄します」


 洗浄したタンクはサイド太陽の光で透かして穴を確認します。穴の部分をマーキングしてから乾燥させます。


「塗膜を剥いで穴を確認しましょう。おっと、針で突いた様な小さな穴が出てきました。これが『ピンホール』です」


 穴の周辺の塗料を落し手ハンダ付けしやすくします。穴だけではなくて周辺まで塗料を剥がすのは周辺も錆穴が開いている可能性が有るからです。塗装で薄皮一枚かもしれません。


「もっとも錆て鉄板がペラペラだったら問答無用で交換します」


 揮発油を入れる燃料タンクです。タンクシーラーを渋っている私ですがなるべくベストになる様にしたいと思っています。


「ハンダ付けしやすい『ヤニ入りハンダ』を使ってみます」


 私の工具箱(ハンダ付け専用)には三種類のハンダが入っています。精密機械用・銀入り・ヤニ入りの三種類です。一番ハンダ付けしやすいと思う『ヤニ入り』のハンダで補修してみます。


「銀入りハンダは融点が高いみたいです。溶けにくいって事ですね」


 母材を予熱してハンダが乗りやすいようにします。融点が高い銀入りハンダだと母材を思い切り熱くしないとハンダが馴染まないかな……と、まぁ素人考えですが。


「ハンダメッキ(予備ハンダ)した半田ごてをタンクに押し付けて母材を予熱します」


 コテ先に付けたハンダが溶けるだけではダメです。溶けたハンダが某ゲームに出てくる『はぐれメタル』のように塗装をはがした鉄板にへばりつくようになるまでタンクの鉄板を熱します。


「少し広い範囲にハンダを盛ります。何せ私もタンクの穴埋めは初めてなものでして、上手くいくか否かは神のみぞ知るってところでしょうか?」


 ハンダ付けで穴埋めをしたタンクは再び錆取り液を入れて放置します。もちろんタンクの燃料取り出し口は塞いでおきます。


「天気が良いので少しだけ塗装をします。前回サビ転換剤を塗っておいたチェーンカバーは上からクリヤー塗装をしておきます」


 使い込んで出た風合いを残して使う『ラットスタイル』ともいえますが、やれた車体でチェーンカバーだけきれいにしてもしっくり来ないってのも理由です。


「ここで今回はタイムアップ、一日休みは整備が進みません」


 次回の休日は十一月六日・七日の連休です。部品が集まって来たのである程度は作業が進むと思います。ではまた次回お会いしましょう。

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