蘇れジャンクエンジン③

 さて、今回は部品棚にあったジャンク部品をメインに使って組んでいきます。スラッジまみれになった部品に不具合が無いか点検を済ませましたが、いざ組み付けようとすると心配になってもう一度チェックするので作業が遅々として進みません。まぁ念には念を入れてと言うか京丁椎が臆病な性格なのも影響しています。


 今回は殆ど新品部品を使わず(と言ってもベアリングやガスケットは新品ですが)組んでいくのですが、何と言うかカブの部品ってどれもこれも品質過剰と言うか、消耗品以外は8割方洗い油でキレイにすれば使えたように思います。


 正直組み付けに関しては『段取り8、作業2』って感じでして、使う部品・使わなければいけない部品を揃えてしまえばどんどん作業が進んでエンジンになっていきます。最初のエンジンを組んだ時は体力低下と不慣れなためにやたら服を汚していたのですが、今回は特に汚れる事も有りませんでした。


 何をすれば汚れるかが解っているので、汚れ仕事の時は作業着を着てやったんですが、回数をこなすと服が自然と汚れなくなる気がします。


 腰下と呼ばれるエンジンの下部にあるトランスミッション・クランクシャフトの組み込みが終わりました。中古の走行距離が少ない車両から外したピストン・シリンダーも組み込んで、いよいよ牡蛎の殻の様にカーボンがポートに溜まっていたシリンダーヘッドを整備します。


 今回、新しい工具を手に入れました。タコ棒と呼ばれる吸盤が付いた木の棒です。今回はバルブ周りの程度が悪く、思い切って県内にある有名な内燃機屋さんに出すか、中古のシリンダーヘッドを買うか悩みました。今回は程度の悪いヘッドだから駄目で元々。新しい事を覚える練習台にしようと思いました。その新しい作業は『タコ棒を使ってバルブ摺合せ』です。


 シリンダーヘッドを分解して行う整備なのですが、多分自動車ディーラーでやらない仕事です。時間がかかるので引き受けても外注。シリンダーヘッド分解が必要なほど走ったエンジンならリビルドエンジンと言って、専門工場で組み直したエンジンに乗せ換えるはずです。元整備士の私ですが初めてやる作業です。


「えっと、バルブステム(弁の軸)にオイルを塗って、バルブの当たり面にコンパウンド(研磨剤)を塗ってバルブシートに叩きつけながら回す……っと」


 ここでトラブル発生。吸盤がバルブに吸い付きません。バルブの掃除が甘かったんですね。吸盤が貼りつく様に掃除のやり直しです。


 バルブに吸盤を吸いつかせて作業再開です。


 シャリシャリシャリ…タン・シャリシャリ・タンタン・シャリシャリ……


 プロがやるとリズミカルかつスピーディーに作業が進むのですが、私は素人同然の腕です。初めての作業とあって遅いです。それでも1時間ほどかけて作業をすると荒れていたバルブの当たり面が滑らかになった気がします。


「えっと、バルブとヘッドを洗浄してチェックか、バルブを戻して灯油を……」


 バルブ摺合せをしたら、バルブとバルブシートが密着しているかのチェックです。吸・排気バルブとスパークプラグを付けた燃焼室に灯油を注ぎます。注いだ灯油が漏れなければ作業は成功です。


 ――――――3時間後――――――


 灯油は無くなっていました。ヘッドの下に敷いておいた受け皿には灯油が……。


 作業やり直しです。再び同じ作業をして漏れが無くなったらバルブ周りを組んでバルブ摺合せ作業終了です。再びシリンダーヘッドを洗浄してバルブスプリング周辺とカムシャフトを組んでいきます。


 タコ棒が無い時は適当なコンパウンドを付けてバルブステムにチューブを付けて、カム側から引っ張りながらトントンカンカンやってました。今思うと、多分あれじゃダメだったなw


 ヘタクソがいい加減な整備してしまっても動くカブの心臓は健気と言えば良いのか鈍感なのか?


 ヘッドの仕上げはバルブクリアランス調整。基準値の0.05mmに調整します。ここで使うのがシックネスゲージと言って薄いステンレスの板のセットです。タペット調整ネジを回して規定値にセットします。


「バイク用のシックネス(ゲージ)は車用より薄いのがあるんやな」


 シックネスゲージを買うまでは勘でやってました。ある程度勘で会わせて、音が大きかったら少し詰めて、静かになったらOKみたいな感じでやってたんですが、もう何度もタペットキャップを何度も開けては調整を繰り返すのが面倒になってしまいましてねぇ。


「何や、○○○(シックネスゲージのメーカー)か、×××(ホームセンターの名前)で注文できたかもしれんなぁ」


 このシリンダーヘッドを組み付けるとエンジン本体がほぼ完成です。ヘッドとカムスプロケットの合いマークを合わせ、クランクシャフトを回して圧縮上死点を出してからカムシャフトのボルトを締め、各カバーを取り付けたらほぼ完成…ですが、ここから思わぬ苦労がありました。


 まだ足りない部品が有ったのです。部品を捜しつつ次回へ続きます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る