博士のつくったあたらしい月

研ぎ澄まされた言葉が宮沢賢治のように美しいのです。

「中天にかかる銀の鎖のような、切れ切れのかそけき光の帯。」

この一文だけで、粉々に砕けた月の欠片が土星の輪のように地球の巡る幻想的な光景が目に浮かびます。

失われた月を再生する物語は、科学と錬金術、神話と空想の挟間に浮かぶようで、その舞台は近未来のようでありながら、もしかするとコペルニクス以前の過去から派生したパラレルワールドかも知れません。

読後、川瀬巴水の『七里ヶ浜』を改めて眺めると、潮騒とともに二人の語らう声が聞こえてくるようで、たまらなく胸が切なくなりました。