30日目 アナタ達が勇者候補ですか?

 今日も教習に来たアナタ・・・、いや正確には


「・・・・ッ」

「・・・・?」

「・・・・!?」


 アナタ達だった。他の人の顔や体格なども分からないが、動きや仕草からそれぞれ個性の様なものがある。アナタ達は何時もと違う状況に混乱していたが、女神が現れて注目が集中する


「よく来ました勇者候補達! 最後の教習にようこそ!」


「・・・・!」

「ッ・・・」


「はいは~い、お静かに~! 今回はアナタ達全員でトレーニングを行います! 集団心理を利用してアナタ達の全力を見定めるためです! 己が力を存分に私や他の人に見せつけてください! もしかしたら勇者の道が開けるかもしれませんよ!」


「・・・!!」

「・・・ッッ!」


 アナタ達は女神の言葉を聞いて気合を入れる者、逆にダルそうにしてる者、自発的に柔軟体操を行なう者など、様々な反応を見せた


「基本的には今までのおさらいになります。各トレーニングを行う前に準備期間をもうけます。道具の持ち込みなどは自由なので好きにやってください。多少暴れても空間に干渉して他の人の迷惑にはならないでしょう」


「「・・・・」」


「いい返事です! では初めのお題は片足立ちです! 皆さん準備してください!」


「「「「・・・・・・!」」」」


 アナタ達は準備に取り掛かった


「用意出来ましたか? では初め!」


 片足立ちとシンプルなお題だったが、皆それぞれやり方が違った。緊張のせいかふらつく者、目をつむって片足で彫像の様に不動を貫く者やボールの上で見事にバランスを取っている者・・・


「・・・・・」


 そして片足で立ってはいるものの、上半身はヨガらしきものを定期的にポーズを変えながらやっている者、何故か武器を振り回している者・・・


「・・・・」


 お題を微妙に無視して、片足スクワットを交互にやりながら蹴りを放ってコサックダンスの様な動きをしている者、片手逆立ちしてる者、電車のつり革につかまって片足立ちしてる者など、それ意味があるのかと突っ込みたくなる様な事をやっている者達が居た。だが女神は止める気は無い様だ


「ハイそこまで! 次はペットボトル運動です! 皆さん用意して!」


「・・・・」


 アナタ達は準備に取り掛かったのだが、先ほどの光景を見て”ホントに自由にして良いんだ”と判断したのか、ペットボトル以外の物を持ち出す者が表れた


「準備OK? では開始!」


 もう普通にダンベルの様にやってる者、ペットボトルの中身を砂に変えてる者、ダンベル使ってる者、・・・・この辺りはまだ普通だった


「・・・・」


 ペットボトルをひたすら投げてる者が居た。確かに女神はペットボトル運動と言っただけでダンベルの様に扱えとは言って無いのだが・・・


「・・・・」


 空のペットボトルを口に当てて吸い込む力で次々と潰す肺活量モンスターや、噛み千切りだす者、ペットボトルの口を足の指で挟んで持ち上げ、さらに両腕にも持って、頭の上に乗せてバランスを取りながら片足スクワットをする体力バカな者、大量のペットボトルを的に武器で攻撃し続ける者も居て、もうサーカス状態な人達や


「・・・・」


 ペットボトルでロケット作ったり、熱で溶かして武器の様な形に加工している者も居た。生産職希望だろうか? この人達に関しては運動すらしていなかった。静かにペットボトルに祈りを捧げてる者まで居る始末である


「そこまで! うむ!今回はなかなか良い内容でしたよ! 次も頑張ってください!」


 女神は止めるどころか応援し始めた


「じゃあ次! 地べたを這いつくばるのです! はい準備して!」


「「「・・・・!」」」


 こんなお題でも準備に取り掛かったアナタ達


「よ~し、では開始!」


 以前に女神に習った事を忠実に行っている者、自衛隊員なのかライフルを持ちながら匍匐前進を行う者、どこから連れてきたのか謎の人物を背中に乗せながら四つん這いで歩いてる者が居た


「・・・・・」


 一見後ろむきに匍匐してる者も居たが、どうやら床に何か絵を描いている様だ、きっと生産職希望の人だろう。中には恐るべき速度で本当に獣と見間違えそうな程の身のこなしの者が居た。彼らは本当に人間だろうか? 魔法職希望であろう者は膝を着いて祈り、定期的に立ち上がって腕を広げ、全てを投げ出す様にうつぶせに倒れた。何の授業だろう?


「・・・・・」


 もう何でもありなのか、地べたを這いつくばって鞭に打たれる物や鞭を振るう者が居た。同意の上なら他の人に干渉可能なのだう


「そこまで! 次は足さばきです!用意して!」


「「「「・・・・・」」」」


 アナタ達は準備に取り掛かった。なぜかペンギン走法を行なってる者が何人かいた


「いいですね? でははじめ!」


 十字線の上で軽快にステップを踏む者、自発的に武器も使ってる者、さらにフル装備で挑んでる者が居た。習った事を無視してつま先でリズムを取りながら踏み込んでパンチしている格闘技経験者風の者は真面目な方で


「・・・・・」


 自然体で立った状態から各方向に初動無しに踏み込む気色の悪い動き者や、なんと馬に乗って行ってる者も何人か居た。騎士志望の勇者候補なのだろうか


「・・・・」


 なぜかバレエやブレイクダンスを行なってる者も居る。踊り子志望なのだろう、たぶん。そしてしばらくした後女神は宣言した


「そこまで! トレーニングはここまでです! ここからは質問タイムになります。何か言いたい事が有る方は手を挙げて!」


「・・・・」


「トレーニング後の筋肉痛を抑えたい? 筋肉痛になると白血球が活性酸素を作りますから抗酸化物質を取ってください、ビタミンCならお手軽でしょう。一日に何回か分けて取るようにすれば効果は高いですし、タンパク質と一緒に取ればコラーゲンになりますから関節の痛みも有効ですね。 後はトレーニング後に冷したり、お風呂で身体を温めた後にストレッチです。筋肉の材料になる栄養を取っても、もちろん効果的ですよ。次!」


「・・・・」


「最近体重が増えた? 肥満を気にしているのなら筋肉は脂肪より重いので明らかにお腹の脂肪が増えたので無いなら、運動して筋肉が付いただけでしょう。体重はダイエットで脂肪を減らす時の目安によくしますが、水分が不足すると1キロとか2キロ平気で減ったり増えたりしますから神経質にならずに、長期間体重を測定して平均値が上がったか下がったかを気にしましょう。と言うか細くなりたいなら体重計じゃなくてメジャーで太さを計ればいいのです」


「・・・・」


「ついお腹引っ込めてインチキしちゃう? なら思いっきり引っ込めた時の太さを基準にダイエットすればいいじゃないですか。お腹引っ込める運動も内臓を支える筋肉を鍛えるのにいいので、地べたを這いつくばる時にお腹に力を入れてみましょう。内臓を重りにしてお腹を鍛えるのです。次は・・・」


「「・・・・」」


 質問に困り、みんな黙ってしまった


「まあ、いきなり質問とか言われても困っちゃいますよね。今日の教習はここまでにしましょうか。皆さん個性的な方が多くて楽しかったですよ。もし縁が有るなら別の機会でお会いしたいものです」


「「「・・・・」」」


「では勇者候補教習はここまで! お疲れ様でした。教習が終わったからってサボってはダメですよ。これからは自分の手で道を斬り開いていかねばならないのですから! では、さらばです勇者候補生達よ!」


 そう言って女神が去って行き。アナタ達は日常へ戻っていった

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アナタが勇者候補生ですか?「では、こちらへ」 軽見 歩 @karumi

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