29日目 こんなのお散歩じゃない!

 教習に来た・・・のだが


「よく来ましたね、勇者候補よ。ではお散歩しましょうか、というか既に移動してますけどね」


 アナタは女神の操る馬車に揺られていた。周りの木々で少しくらいが、枝の隙間からは青空が覗いている。林の中の新鮮な澄んだ空気が心地よかった


「・・・・・」


「これはどういうことか? 今日の教習は野盗蔓延る旧街道を馬車でお散歩しようかと思いまして」


 女神がそう言った後、馬車の残骸と馬の死体が木に激突したかのように道の端に置かれていた。アナタの乗った馬車はゆっくりとその隣を通り過ぎていく…。そしてアナタは女神に言う


「・・・・・、…!?」


「聞き間違いではありません勇者候補よ、野盗です。さあ、装備は荷台に積んでますから野盗が出る前に装備して下さい。さもないと手遅れになりますよ」


 アナタは焦りながらも装備を整えて、戦闘準備をした


「…ッ・・・ッ!!」


「用意は整いましたか? 持ちきれない武器もジャンジャン使って構いませんからね。あ、もう来たようですね、野盗が」


「・・・!」


「さあ勇者候補よ、馬車の操作は私に任せて、アナタは野盗共を蹴散らしてください!」


 アナタは馬車の荷台に立ちながら野盗達と交戦した


「・・・・・!」


 野党は叫びながら馬を走らせて来るのだが、何故か攻撃する直前で減速してしまう。その様子を見て女神は言った


「あ~、素人に有りがちなミスですね。敵に突進しようと馬に拍車を連続でかけてまくってスピードを上げ様とするのですが、いざ攻撃しようとした瞬間に武器を振るうのに気をとられて拍車をかけるのを止めてしまい、馬が”もう走らなくても良いのかな?”と誤解して減速してしまうのです。敵に怯えて止まる事も有りますから、アナタが馬を操る際は拍車をかけるのは攻撃に移る時に行ってくださいね。焦りは禁物ですよ」


「・・・・」


「こいつら弱くないか? 平民クラスで対処可能なくらいですからね。では勇者候補よ、せっかくですから色々試してみてはどうです? 容赦なく馬を攻撃してください!動物愛護精神は不要ですよ!」


 アナタは後ろを走る野盗に、荷台にあった要らなそうなものを放り投げて応戦した


「・・・・ッ!」


「ナイススロー。こちらは奴らの前を走ってますからね、相手の加速して向かってくる力に物をぶつけて大ダメージをあたえるのは悪くない考えですよ」


 野党達をアナタが投げる物に倒されて行く。石、水平に投げた棒、大きなバナナの塊など・・・・


「・・・ッ!!」


「ああ!私のおやつがぁ!!」


 女神は気に入っていたのか大量にバナナを荷台に積み込んでいた。バナナの塊の房には携帯し易くする為かロープが結ばれている。アナタはそのロープを持って頭上で回し、勢いの付いた憎きバナナの塊を野盗に投げつけた


「・・・ッ!・・・ッ!」


「え、ちょっと勇者候補よ? 何でそんなバナナばかり投げるんです!? 前のお散歩の事を根に持ってるんですか!? 少年漫画で主人公と宿敵が共闘する燃えるシチュエーションがありますが、アナタとバナナが共闘しても誰も燃えませんよ!」


 野党も馬の操作に慣れたのか、段々追いついてきた。アナタは適当な槍を持ち牽制する


「…ッ・・・ッ!」


「勇者候補よ。これは別の状況話になるのですが、もし向かい合って馬で突撃し、すれ違う瞬間に攻撃する場合は互いの力がぶつかり、大きな衝撃を与えられるでしょうがその反面、武器が弾かれてしまうので正面を狙った攻撃は避けてください。また斬り下ろす時に刃を引くと戻る力が強すぎて自分の足や馬を斬る危険が有るので避けましょう」


「・・・・・  ッ!」


 アナタは前方に待ち伏せていた野盗を横薙ぎに攻撃した


「ハハ!よく気づきましたね」


「・・・!」


「ぜったい私なら仕込んでると思った? はて、どういうことでしょう」


「・・・・」


 とぼける女神は、馬を走らせながら言った


「次、大きく左に曲がりますから絶対に左側に敵を入れないでくださいね」


「・・・・!」


 アナタは女神の言葉に頷いて武器を構えた。しかしこのままのスピードなら十分まけそうだった


「あ、待ち伏せを警戒しながら進むのでスピードを落としますね。もし敵を振り切れなかったら曲がれずに木に衝突しグシャグシャになるでしょう。初め見たあの残骸の様にね♡」


「・・・!?」


 アナタは敵を寄せ付けない方法を必死に考え、取りあえず槍を投げた


「ッ!!」


 それなりの効果はあったが勢いを止めるには足りなかった。地面に刺して槍をバリケードにしようとしたが上手くいかない


「勇者候補よ、槍を地面に刺すのも面白い手ですが、それでは直ぐ薙ぎ倒されますよ。後ろに向かって投げるのではなく前に投げましょう。そうすれば石突きが後ろに向く様に斜めに刺さりますから返しの様な効果が有ります。前に刺した槍に自分が当たらないようにしてくださいね~」


「・・・・・!」


 言われた様に前にむかって左側を潰す様に投げた


「どうです? 長槍パイク兵も石突きを地面に刺して槍先を斜めに向けて馬の突撃を集団で止めるのですよ。ご参考までに。それより勇者候補よ、道が狭まったと言う事はその分戦力が集中すると言う事、真後ろ警戒しなくていいんですか?」


「・・・?……!?」


 野盗の1人に馬車に取りつかれていた


「勇者候補よ!すぐに叩き落としてください!」


「・・・ッ!!」


 アナタは乗り込んで来た盗賊と格闘戦が始まった。一人を相手にしてる内に他の野盗が取りついてきたが、どうにか一人づつ対応出来た


「勇者候補よ、曲がりますから何かに掴まって!」


 カーブの遠心力でアナタは振り落とされそうになったがどうにか耐え、野盗達は馬車から落ちて行った


「ッッッ!!!」


「ふう…、勇者候補よ、もう奴らの縄張りから出ましたから大丈夫ですよ。どうでしたか実戦は? 今回相手にしたのは弱体化させた敵でしたけどね。本番はもっとキツイものだと思ってください」


「・・・・」


「ハハハ、では今回の教習はここまでにしましょう。ではまた次回、皆さんとお会いしましょう!」


 そう言って女神は去って行き、アナタはいつの間にか何時もの空間に戻っていて、そこから日常に戻っていった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る