3話 水色の便箋に家紋
牢間が俺に差し出した紙は、水色の封筒だった。牢馬が強く握っていたせいで、元の封筒の原型はなくなっている。元々は、すごく綺麗なデザインだったのだろう。
「聞いて驚くなよ?龍の国からの手紙だ!」
ドヤ顔で言う牢馬に冷たい目を向ける。あきれてものも言えないというのは、この事だ。
「……そうか」
「反応薄すぎだろ!何で分かっていた様な口ぶりでいられるんだよ!」
「……」
この世界の一般常識さえも頭に入っていないのかと思うと、頭が痛い。
この世界には、9つの国がある。俺が住む鏡の国に、自然を司る花の国、魂を管理する月の国、万物の汚れを支配する罪の国、全ての世界との出入り口の妖の世界、感情を操る意の国、知識溢れる者たちが集う学の国、光と影のバランスを保つ日の国。そして、それらの国のトップに君臨しているのが、全ての国の良き関係を築く龍の国だ。
これは、幼稚園児でもわかることだが、牢馬はこれを覚えているかさえも怪しい。
封筒の色は、国ごとに定められており、封筒の色さえわかればどこの国から来た手紙なのかがはっきりと分かるようになっている。
ちなみに、これは小学1年生の最初の授業で習う内容だ。一般常識、基本の基だ。
「一応聞いておく。まさか、中は読んでないよな?」
「もちろん!俺がそんな奴に思えるか?」
「……はぁ、バカが」
そんな奴に見えるか?といわれても、普段からそういった行いをしているのだから、疑われても仕方がないだろう。牢馬にはプライバシーというものが存在しない。彼にプライバシーがないというのはいいのだ。ただオープンな性格というだけで済むから。しかし、こいつには周りの人間にもプライバシーがあるということを知らない。入ってほしくないのに、ノックもせずに部屋に入り、気づいたら俺宛の手紙を勝手に読んでいる。
「読むわけねーだろ?おふくろさんが、龍の国からだって言ったからさ、さすがにまずいと思って、やめた」
「それは、龍の国からの手紙じゃなかったら読んでいたってことだな?」
「勿論」
「ありえねぇ」
やっぱり、プライバシーのかけらもない。
呆れ気味に睨みつけると、
「と、とりあえず、読め」
話をそらされた。
封筒のしわを伸ばして、腰にさしてある剣で封を開ける。
「器用だな」
「これぐらい、誰でもできるぞ」
封筒の中に入っている便箋の色も水色。
封筒の色は定められているが、便箋の色は定められていない。色をそろえる人はめったにいない。便箋が白というのが一般的だ。
紙を広げると、便箋に薄く印刷されているマークに目を丸くした。
それは、龍の国の王家の家紋だった。
俺が見せた二人の空に 神奈 万桜 @kurahashihaya
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