# J.S.

「 J.S. !」

ルビィが呼ぶと、光る魔法陣と共にそれは現れた。


「お呼びですか!マスター!」

女の子だ。見た目は幼く、小学生くらいか。ぴっちりとした衣装が少女らしいシルエットを強調している。うむ、申し分のない可愛さだ。ランドセル背負わせたいくらいに。


「この男性にゲストアカウントの発行を頼む。」

とルビィに要求を受けたJSは「嫌だなぁ」と言いながら片方の眉毛を釣り上げる。

「やたらとゲストユーザーを増やすのはお城のセキュリティ上よろしくないんですよ、マスター。」


ルビィによれば、この子は人間ではなく、 Jewelbank 機械仕掛 Statemachineけの宝石守りと呼ばれる城内システムのインターフェース・・・つまるところAIアシスタントのようなものらしい。


JSの懸念に、「わかってる」とルビィ。

「この人はパールの命の恩人だ。頼むよ。」

「えぇ、こいつがですかぁ。」

と言って、JSは訝しげに俺の顔を覗き込む。

「ほれ、アカウント発行してやるから感謝するです。ゲスト。」

少女の手から蛍のような小さな光りが放たれ、ふわふわと俺の肩の上に飛んで来た。

「なんだこれ?」

「ゲストID兼・監視装置トラッカーです。最低限の人権くらいは保証してやりますけど、変なことしたら命はないと知れです。」

ひどく物騒な話だ。

「最低限の人権って?」

「呼吸くらいは許してやるです。10分に1回。」

「死ぬだろ!」

「ラウンドロビンなのです。資源は有限だから我慢するです!」

「お前には人間が生きるための要件から教えないといけないみたいだな。」


がぶり。


「痛ぇ!」

俺の右足に何かが噛み付いた。下を見るまでもなく、防衛用の魔獣だろう。

「おい、これは最低限の範囲外か?」

「間違えて上半身だけゲストにしたです。下半身はあきらめるです。」

「どういう管理になってるんだよ!」


「JS、遊んでないでその人を通してくれないか。」

「はいマスター!」

JSが手をかざすと、俺の脛をランチにしようと奮闘していた魔獣が漸く口を離した。しっし、と念入りに追い払う。

「ほらゲスト、遊んでないで行くですよ。」

JSの理不尽な指摘は聞き流す。

「俺には志位トウジって名前があるんだが。」

「ゲストはゲスト扱いしないと調子に乗るです。」

「せめて名前だけでも。」

「じゃあ・・・ゲス。親しみを込めてと呼んでやるです。」

最悪な方向に、俺の呼び名は進化を遂げた。


「なぁ、お前AIインターフェースなのにルビィと俺で扱い違いすぎないか?」

「当たり前なのです。admin権限持ちのマスターとゲス、どういう扱いになるのか火を見るより明らかです。」

「露骨すぎんだろ!もうちょっとを機械学習して・・・」


JSとの会話は、ルビィが声を上げたことで中断された。

「どうした。」

彼女は首元に手を当てていた。よく見ると黒い首輪のようなものをつけている。

「また帝国軍から通信・・・ ?わかった、すぐ戻る。」

どうやら魔法通信端末のようだ。パールによると、姉であるルビィは魔法が使えないという話だが、デバイスを使えばその限りではないのだろう。


パール。彼女は無事だろうか。どうしようもない不安感を拭うために頭を軽く振ってから、ルビィの後を追う。一方JSは「お先に」と言って光の中に消えた。


# 次回、Over Clock

exit

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