# Health Check
俺は草原に馬を走らせる。背中に寄りかかるパールはまた気を失っていた。死戦期呼吸だろうか、苦しそうな呼吸音が聞こえてくる。急がなくては!1秒でも早く、城に彼女を連れて行く必要がある・・・!
あれか!遠くに人工物らしいシルエットがあるぞ。
「止まれ!」
ふいに、両脇から馬に乗った男達が現れた。
「ここはバルネラ王国の防衛線だ!侵入は許されない!」
彼らは
「俺は怪我人を連れてる!あんたらの仲間だろう!」
「なに!?その後ろの女は・・・戦姫!」
「せ、戦姫殿がこのような怪我を!?よし、ついて来い!」
2騎の
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並走する二人のパトロールは、城の城門に
パトロールの一人が先導し、俺は促されるまま彼の後ろに付く。もう一人は俺の後ろを走り、3騎は一列になって防壁を抜けた。セキュリティの仕組みは分からないが、先導の男が何かをすると防壁に通り道が開く。
防壁の中は庭園と防衛設備が合わさったような形になっており、ここを抜けようとする者にとって前進し難い構造になっている。そのため、もどかしいが回り道をするように緩やかな上り坂を越えながら城門へと向かった。
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城門は巨大だ。見えない防壁で防衛するこの世界でも、石造りの城壁は最後の守りの要なのだろう。前を走るパトロールが、「もうすぐだ!」と叫ぶ。城門の前には既に何人かが待機しているのが見えた。全身を朱色に染めた集団(緊急時に一目で分かるように、だろう。過剰に差別化されている)は、おそらく医療関係者だ。彼らに混じり、一人の少年・・・いや、少女がいる。その顔には見覚えがあった。妹とは対照的なショートカットに端正な顔立ち、眼鏡とベレー帽、それに着ているのは戦闘用ではない軍の制服だろうか。一見すると美少年のようにも見えるその女性は、パールの姉だというルビィに間違いなかった。
前の馬に合わせてスピードを落とすが、不慣れな俺は少し手前で止まってしまう。
「パール!」
ルビィと
「パール!頼む!目を開けて!」
語りかけるルビィを、朱色の男の一人がそっとパールから引き離した。そして彼は、力なく俺に寄り掛かかる彼女に左手をかざし、
「 ß æ Æ ¤ ψ Ђ փ ֆ 」
と、俺の知らない言語、おそらく
ルビィはその様子を心配そうに見守る。
「ドクター、助かるか。」
「ご安心を。首から下を挿げ替えてでも治してみせます。」
彼は冗談とも本気とも分からぬ発言に続いて、
「
と言いながら浮遊したパールと医療スタッフ達を連れ、城内へ走り去った。
「ルビィ司令官、この男はどうしますか!?」
俺をエスコートして来たパトロールの二人がいつの間にか俺を挟んで立っている。逃げられないよう、しっかりと俺の馬の動作モードをスリープへと切り替えていた。
「客人だ。持ち場に戻ってくれ。」
「Yes, Ma'am!」
パールの運ばれて行った方をじっと見つめていたルビィが漸くこちらに顔を向ける。
「トウジくん、君は無事なのか?」
どきりとした。決して彼女にそんなつもりは無いと分かっているが、俺の中に生じた責められているような感覚は、罪悪感にも似ていた。
「その・・・ジャヴァという軍人が助けてくれて。」
「ジャヴァ!彼は無事か?」
「・・・いえ。」
そうか、と口にしたルビィの顔が曇る。
「何があった?何個もの部隊と通信が取れなくなってる。」
「突然・・・爆発があったんです。」
「爆発・・・。防壁が破られた?」
「わかりません。でもジャヴァは、防壁は破られていないと。榴弾・・・でしょうか。たくさんの結晶が降り注いで・・・一瞬でした。」
「これが、帝国の・・・パイソンの攻撃だと言うのか。」
ルビィはよろめき、バランスを崩しそうになったので俺は慌てて支える。そして彼女は絞り出すように、次の言葉を紡いだ。
「野営地にいた・・・他の兵士は。マトラーは。生存者は。」
「それも、わかりませんが・・・たぶん・・・もう。」
俺が濁して言うと、彼女は縋り付くように
「たぶんの先を言ってくれ!僕にはそれを聞く義務があるし、覚悟はできている!」
と必死だった。おそらく、自分でも分かっている。でも、祈るような思いで俺に答えを求めているんだ。その心中を思うと居た堪れなかった。
「たぶん・・・全滅です。竜騎兵が・・・とどめを刺すのを見ました。」
一瞬、端正なルビィの顔が、苦悶に歪むように。泣きそうな表情になったように見えた。が、次の瞬間には驚くほど冷静で、別人・・・感情を内側に残したままシャッターを締め切ったように、その表情からは動揺も悲しみも何も感じ取れなくなっていた。
「すまない、少し取り乱した。」
「大丈夫・・・ですか、ルビィさん。」
少し心配になったが、彼女はまっすぐ俺の目を見て言葉を続ける。
「トウジくん、巻き込んでしまってすまなかった。協力に感謝する。」
「いえ・・・そんな。」
「何か謝礼が必要なら遠慮なく言ってくれ。すぐにここを離れた方がいい。」
冷静に考えれば、ここで去るべきなのだろう。ああ、分かってる。でも。
「謝礼代わりに、もう少し、俺にも手伝わせてください。」
「君は・・・。」
ルビィは少し困惑した表情を見せた。シャッターをこじ開けたようで、ちょっと嬉しい。
「命の保証はできない・・・分かっているだろう。」
「助けて貰った命です。それに、パールさんのことも心配で。このままじゃ行けません。」
少し考えてから「わかった。」とだけ答えた彼女のその口元は。僅かに微笑んでいるように見えたが、すぐに無表情に戻った。
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城門をくぐると、ぎろりと俺を敵視する視線を感じた。それは人ではない。木の影に。堀の裏に。樽の上に。淡く山吹色に光る、大きな猫科の動物に似たシルエットがのそり、のそりと動き出した。
ルビィが気付いて俺に囁く。
「そうだった。こいつらは魔獣、自動防衛
なるほど、俺は部外者で、こいつらの
「ルビィさん、これ洒落にならないやつじゃ・・・?」
「 J.S. !」
俺の心配をよそに彼女が声を出すと。
目の前の空間が光り、
「はい!マスター☆」
女子小学生くらいの少女が現れていた。
# 次回、J.S.
exit
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