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ちびまるフォイ

全世界に広がる大人気アプリ

「あの子って、そういうところあるよね」

「自分だけ特別だとでも思ってるんじゃない?」

「ホントああいうの嫌いだわーー」


出る杭は打たれる。

特に女社会は顕著で同じであることが正義。


「はぁ……そんな気はないのになぁ……」


小さいころから身長は高く、俗にいうモデル体型。

趣味は女子から程遠いごりごりのガチゲーマー。


自分では目立ちたくないのにどうしても目立ってしまう。


一挙一動が女子トイレの陰口トレンドに食い込み、

どんどん自分の立つ瀬がなくなっていく。


「……ん?」


スマホを操作しているとおすすめのアプリとして

『没個性アプリ』が紹介されていた。秒速でインストール。



『顔を登録してください』



カメラ機能で自分の顔を認証させるとアプリが動いた。


『このアプリではあなたの顔や性格に合わせて

 周りとなじめるよう個性をそぎ落とすアドバイスを行います』



「なにやってんの?」


画面ばかり見ていたので、声をかけられて驚いた。


「え、な、なに?」


「今日の帰り、みんなと寄り道するんだけど、佐藤さんも来ない?」


女子同士の放課後友達デート。

これは新学期もはじまり距離を詰めたいというお誘い。


アプリはマイクで拾った声に反応し自動診断を行う。


――――――――――――

行く   … 80%

行かない … 20%

――――――――――――


「うん、行く!」


「行きたい場所とかある?」


――――――――――――

ファーストフード … 10%

スイーツ  … 10%

洋服屋さん …70

書店    …10%

――――――――――――


「ちょっと服とかみたいかな」


「本当!? 実は私も服とか見たいなぁって思ってたの!

 私、服とか超好きなの! 佐藤さんもそうなの!?」


――――――――――――

はい   … 75%

いいえ  … 25%

――――――――――――


「う、うん。好きだよ、すごく」


アプリには世界から集計されたすべてのデータが自動掲載される。

私と同年代で顔も近い人間が選んでいる答えがわかる。


この通り行動すれば、私は大多数の一員になることができる。

個性を消して集団に同化できれば、もうつるし上げられることもない。


「没個性アプリって最高!!」



数日も使っていると、没個性アプリにすっかり入れ込んだ。


「ねぇ、休日はどうするのがいいのかな?」


――――――――――――

   家で休む …20%

友達とおでかけ …60%

ひとりで買い物 …20%

――――――――――――


「よし、ちょっと出かけようかな」


アプリに話しかければ統計結果を出してくれるので、

いつだって最良の選択をすることができる。


休みの日何やってるの?と聞かれて、

目立つような答えをすることもなくなる。


「ねぇ、没個性アプリって知ってる?」


もう肩までどっぷりとアプリに依存した私は、

この素晴らしいアプリをいろんな人に広めることにした。


友達が作れずに悩んでいる人。

我が強すぎて避けられている人。


はては、ちょっと苦手な部分がある友達。


没個性アプリを使えば個性が薄まって人間関係が円滑になる。

お互いの主張をぶつけ合ってケンカすることもない。


「ああ、没個性アプリね。みんな使ってるよ」

「これいいよね、私も使ってる」

「私も私も。もう手放せないよ」


私の宣伝活動が実を結び、テレビでも紹介されるほど浸透した。

今やスマホを買い替えたときに、初期状態で入ってるアプリになった。


そんなある日、学校でのことだった。


「俺と付き合ってください!!」


男子に呼び出され告白された。

今までもなかったわけじゃないので、驚くことはなかった。


――――――――――――

断る   …40%

受ける  …60%

――――――――――――


「はい、付き合いましょう」

「やったー!!!」


男子は名前も知らない別のクラスの人だった。

この人と付き合いたいというより、目立ちたくない気持ちが強かった。


けれど。


「好きでもないのに付き合ってるみたいよ」

「えーー、彼氏自慢とかしたいわけ? サイテー」

「ずっと片思いしてた麻里ちゃんの気持ち無視だよね」


私の選択は間違っていた。


「どうして……私はちゃんと多い方を選んだのに!!」


別に好きでもない相手と付き合っていることは態度でもわかるらしく、

それが「男をはべらせたい」と思われて、また私は悪目立ちした。


アプリの運営に八つ当たり半分で連絡すると、


『当アプリはすべての世界の集計結果をもとにしています。

 お客様の世界・地域では少数派が正解になる場合もあります』


まっとうな答えを返されるだけで、私の状況は変わらなかった。



※ ※ ※



「……というのが、私が自殺するまでに至った経緯です」


天国・地獄審判所の神様に洗いざらい報告すると、

神様はうんうんとうなづいた。


「辛かったね、話を聞けば全部悪いのは周りじゃないか」


「そうなんです! 私は何も悪くないんです!」


「君のような現世で不幸な子は報われて欲しいと思うよ」


神様は同情してくれて、心に寄り添ってくれる。


「こっちの世界でもそういう誤解はよくあるんだ。

 君の悩み、辛かった気持ち、本当によくわかる」


「神様……!」


「うん、君の行き先が決まったよ」




「地獄行きだ」



「ええええ!? この流れで!? どうして!?

 神様だって私の気持ちわかるって、報われて欲しいって言ったじゃないですか!」



――――――――――――

天国  …40%

地獄  …60%

――――――――――――



「だって、そう出てるんだもん」


神様はスマホの画面を印籠のように突き出した。

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