名はスキルの効果さえ超越する(※訳:名前だけはチートです)
薄 リキ粉
プロローグ ~掛け声は正しく~
異世界転移……それはファンタジー好きなら誰しもが一回ぐらいは憧れるシチュエーションである。
選ばれし勇者、チート無双、俺強ぇ、ハーレム、美少女ヒロイン、魔王討伐、憧れる理由は様々あるだろうが一見して非日常を求めている。
俺こと、
中背中肉、陰キャラ、友達ゼロ、普通、これらを極めたのが俺という存在だろう。
特に目立つような容姿でもなく、
特に明るい性格でもなく、
特に絡むような友達もいなく、
特に突出した何かを持っているわけでもない。
ついでに言うと人見知りだ。
こんな奴が、初対面ばかりの高校に入るとどうなるか?
答えは勿論……ボッチだ。
高校生活が始まり何ヵ月か経つと大体グループというものが形成されていく。
勿論俺はその中でボッチというポジションでいた、所謂一匹狼だろう。
そんな一匹上等だったある日、不良系が集まったグループに目をつけられる事になった。
原因はクラスで一番可愛いとか、
学年で5番目に可愛いとか、
学校で25番目に可愛いとか、結局可愛いのか、どうなのか、と中途半端に噂されている同級生に対して俺がラッキースケベを発動したからだ。
簡潔に言うなら女の子の胸を揉んでしまったのだ。
その時の事は昨日の様に覚えている。
その日の昼休み、前から読みたくて何度もリクエストしていた本が図書館に届いたと先生から連絡が入り柄にもなくウキウキしながら図書館へ足を運んだ。
特に何のイベントも無く本を借りた俺は教室へと戻ろうとする。
早く読みたいがために早歩きで教室のドアへ向かうと素早く横へスライドさせる。
そこで丁度その女の子とかち合ったのだ。
俺が急いでいたというもある、勢いよく教室に入った俺はブレーキが間に合わずその女の子と衝突してしまう。
女の子を巻き込み前のめりに転けてしまい、その瞬間何処かに捕まろうと無意識に伸ばしていた手が掴んだのが胸だった。
手を離しても脳内に残り続ける柔らかさは俺にとっての毒だったな……まぁそこからは取り巻きどもに、変態やらスケベやら罵倒が雨霰の様に降り注いだ。
その中でも特に心に効いたのは、一人の男が放った「教室間違えた上にこれは可哀想だな」だった。
そして後にその男が隣に座っている奴と分かったときは中々来るものがあったな……
そんなこんなで罵倒されても何も言い返さなかった俺は不良達に遊び道具として認識されたと言うわけだ。
とは言ったものの別に学校で暴力を振られるとか、金を巻き上げられるとか、虐めにあってるとか、そういうものは一切無く、普通の学校生活を送れていた。
じゃあ何で異世界転移にすがるかって?
答は簡単だ、まさかまさかの不良達は俺の家を溜まり場として利用するようになった。
俺には保護者がいない、あるのは両親が残した保険金のみだ。
その金で学校に出来るだけ近いアパートに住んでいる。
だから、騒がれると最悪の場合、寝坊をしても遅刻しないほどの近さを持つ
高校生活始まって以来の危機感を感じた俺はどうにか溜まり場を変えて貰おうと試行錯誤を繰り返した。
近所で幽霊話を広めたり、実際に泣き声を録音し深夜0時に鳴らしたり、したが結局アパートの住民が減っていくだけで逆に溜まり場としては良い環境になっていった。
そこで考えた結果、俺は異世界転移しかないと判断した。
しかし、転生と違い只待つだけの毎日。
謎の女性とも会わず、教室が光る事も無く、目が覚めたら知らぬ天井でも無く、時が止まり神の声が聞こえる事もないまま一年の間淡々と俺の高校生活は流れていった……
不良達が居ない静かな部屋で転がりながら瞑想していた日曜の昼に一つのチャイムの音が聞こえてくる。
俺には友達がいない、不良達はチャイムなど押さない、セールスなら声を掛けてくる、大家なら自室で療養中、一体誰だ、と不審がりながらもドアを開ける。
そこに居たのは頭にフード、全身にマントで、いかにも自分怪しいぞ風な格好をした人だった。
「すいません、隣の者ですけど……」
声を聞いた瞬間に、女性だと確信した俺はどうすれば良いか迷った末とりあえず部屋に招き入れるという訳の分からない行動をとった。
荷物が散乱している部屋に連れてくると、俺はベットへ女性は近くにあった椅子へと腰を掛けた。
「他堂さんですよね?」
「そうです俺です他堂は」
久しぶり人と話した俺は少しばかり口調が変になっていた。
羞恥心を覚えながらも切り替えて俺は言葉を続ける。
「それで用件は?」
「異世界転移に興味はございませんか?」
おっとセールスだったか……一瞬そう思ってしまうほど自然な流れで結構凄いことを聞かれてしまった。
普通なら直ぐにお引き取り願うが、現状がこれなので少し期待しながら答える。
「あります」
「ではご案内します」
「え?」
俺の回答に即座に反応を返した女性は指を一鳴らしする。
すると、俺の部屋は視界から消え去り真っ白な世界へと切り替わった。
「え?え?え?え?」
目の前で起きた現象に混乱し挙動不審になってしまう。
こういう展開に憧れてたはいたが、実際起きると焦るのだ。
「大丈夫です、あちらの空間では説得力に欠けるので転移して貰っただけです」
つまり転移したいのに転移させられたと……まだ頭が理解していないのか意味不明な事を考えてしまう。
口に出さなかった自分を少し褒めてやりたい、とか思っていると女性がフードを取り素顔を見せる。
「ッ!」
露になった女性の素顔に俺は思わず息を飲んだ。
何故なら、目の前の女性は美人でもなく、不細工でもなく、とても普通の女性だったからだ。
これにはさっきまでまであった、混乱や焦りは一気に吹き飛んでいった。
ある意味、美女だった以上の驚きが俺を支配した。
「どうかされましたか?」
驚きで固まっていた俺に不思議そうな顔で聞いてくる。
色々とツッコミ所が結構はあるが取り敢えず今は置いておく。
しかしこれだけは言っておきたい。
こういう場面での美女演出はやはり創作物の中だけの話なのだ、と。
「すいません、突然このような場所にお連れしてしまい……」
「いや大丈夫です、取り敢えず説明良いですか?」
黙っていたのを機嫌を悪くしたと勘違いした女性はもう訳なさそうに謝ってきたが、そんな事よりも俺は現状説明を求めた。
すると女性は真剣な表情になり話をし出す。
「……ということです」
約十分間ぐらいの説明が終わると女性…もとい此処とは違う世界に存在する15神の内の1神、時の神ミラ・クレアはそっと目を瞑った。
自己紹介のとき、カッコいい!と叫んだのを反省しつつ聞いた話を頭の中で纏めていく。
簡単に言えば俺はどうやら異世界の神同士の道楽に巻き込まれたらしい。
世界を創造して以降暇をもて余していた神達は親戚の家に遊びに行くかの様に俺達の世界へ来た。
そして日本独自の文化に心を奪われた神達はそれぞれ日本への滞在を決めた。
だがある日、ある神様が一人の男を異世界へ送ったと知らせが入り、それを気に他の(目の前にいる神を除く)13神も同じように異世界へ誰かを送ったらしい。
その日から神達の楽しみは日本で暮らすより異世界に送った人を観察するという訳の分からないものに変わったらしい。
一人だけ乗り遅れたミラ・クレアも異世界へ誰かを送ろうと思っていたが中々決められず困っていた。
そんな時に現れたのが俺だ。
ミラ・クレア曰く、何かこの人なら異世界行きたそうだな、と思ったらしく見かけたその日、つまり今日声を掛けてきた。
何年も住んでいて見かけたのが今日という、心にダメージを負いそうな事実を受け止めた所で纏めを終わる。
「それでどうですか?異世界転移、今ならサービスしますよ」
本当にセールスと話している気分になってきたが、そう簡単に答えを出せる訳もないので取り敢えずこう答えておく
「少し考えます」
「分かりました、私は少し他の神に会ってくるので決まったら、異世界行っきまーす、と声を掛けてください」
「……いや、そんな変な掛け声言えるかって……居ないし」
真面目に頭を悩ましていたのでミラ・クレアの言葉を理解するのに時間が掛かってしまいツッコミが間に合わずガ○ダムを思い起こさせる台詞を言わなくてはならなくなった。
まぁ決まった事は仕方がないと切り替え、決まっていない事を考える事にする。
シンプルに議題は異世界転移 yes/no か?
一年前なら迷わずyesを選ぶが今は悩む。
つまりこの議題はこのように置き換えられる。
異世界に行き定番のギルドとやらで生計を立て生き続けるか。
それとも大家が倒れ住民が減り苦情が一切なくなり出ていく事をしなくて良くなった
「……」
よし、決めた。
俺は残された余生を安全かつ楽に過ごすために異世界へ行かないことにする。
不良達も五月蝿いだけで、夏の蝉と思えば普通だしな。
決まった所で呼ぶか……意味が同じなら大丈夫だろ、と判断した俺は掛け声の言葉を少し変えて言うことにする。
「コホン……異世界行きます」
『了解……了承確認完了……世界名:地球……地域:日本……個体名:他堂国光……異世界への転移を開始します』
そして……何やら不穏な音声が頭に直接流れてきた。
名はスキルの効果さえ超越する(※訳:名前だけはチートです) 薄 リキ粉 @Alone-Reserved
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