嘘つきが騙った英雄譚

@kusaba_sou

第1話 プロローグ

 俺が幼かったころに、母が寝物語で語ってくれた大昔の英雄譚の内容を今でも覚えている。

 ある英雄は、生まれたその時から神様に見初められて金剛の肉体と不屈の精神を与えられた。彼は神様に導かれるまま多くの国を回り、そこで数々の怪物を打ち払い、最後には彼を見初めてくれた神様と結婚した。

 ある英雄は、その一生を愛に捧げた。彼の愛した女性とは、会ったことも無い大陸の反対側に住まう海の民の女性だった。愛と言う衝動に突き動かされた彼は、10の山脈を超え20の樹海を踏破して、ついには女性に愛を伝え、そして結ばれた。

 ある英雄は、異界より現れた。無から現れた彼は、「世界に果ては無い」と言いそれを証明する旅へと出た。各地で神の英知を語りながら数十年に及ぶ大冒険を経て彼は、世界を大きく広げて再び異界へと旅立った。


 そんな彼らの物語を聞かされた幼いころの俺は、それはもうワックワクしたさ。まるで「嘘」のような凄い人たちだなってな。


 幼いころの俺はひどく世界を単純に考えていた。


 努力をし続ければ彼らの様な「すごい人」に成れると、本気で一切疑わずに信じていたんだ。


 そして、彼らのようになりたいと純粋に思った俺は、剣を振ってみたり、多くの言語を勉強したりした。が、俺には金剛の肉体は宿らず、英知は湧かなかった。


 今ならわかる、彼らのようになるのに必要なのは「努力」ではなく、きっと「必然性」だと。選ばれた者たちが英雄となるんだと。このまま行けば俺は「ちょっと鍛えていて、ちょっと賢い」一般人で一生を終えてしまう。


 それは嫌だ!


 ならどうする?


 英雄たちは嘘のような一生を駆け抜けて伝説になった。

 

 ならば俺は嘘のような「嘘」の一生を騙って伝説を作ろう!ゆえに、手始めにまず。


「この村を出ようと思う!」


「おーー」


 俺の話を聞いていた紫っぽい色の長髪をした小さな少女。シャルはその小さな拳を天に掲げ同意を示してくれた。


「わかってくれるか!さすがは我が妹っだ!」


 ベチンッと鈍い音を辺りに響かせながら、突如として俺の後頭部に激しい衝撃が突き抜ける。


「アホな事を言ってんじゃないわよ。このアホ兄妹が」


 そう、声を掛けてきたのは、短くまとめられた赤っぽい色の髪をした少女。


「なんだ、ワインか」


「なんだとは何よ!わざわざ、村長に伝言を伝えに来てあげた相手にかける言葉がそれ?!てか、何あの伝言は?」


「お、伝えてきてくれたのか」

 

 ニーと裂けたような笑みが浮かぶのを感じながら、心の中で宣言する。


 さぁ、伝説を始めるとしよう!

 手始めに、旅立ちだ!

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