第10話 魔法が消えた世界

 こうして……。

 二人の魔女は去ってしまい、何千年にも渡って戻ってくることはありませんでした。


 国は変わりました。

 月の魔法が消え去ってしまったからです。

 不作の年もありました。家畜の流行り病もありました。他の国がそうであるように、時にはひどい天災も起きて、多くの人が命を落としたりもしました。 

 すっかり年老いて弱ってしまった王様は王位を退きました。

 美しかったお妃様の思い出に浸りながら、お城の離れの小さな屋敷に移り住み、庭のすみで薔薇を育てて過ごしました。

 新月と満月の夜には、やはり祈りを日課としました。二人の魔女がいなくなったとはいえ、長年続けていたことは、やはりやめられないのでした。

 そして、過ぎし日の魔法に守られた王国を思い出しては、やはり、薔薇を愛でるのでした。


 他の国の人々は、もうこの国を【月の魔法に守られた幸福の国】とは呼びませんでした。

 でも、この国はやはり【幸福の国】でした。

 なぜなら、世界で一番美しい女王様がいたからです。

 王様が、安心して王位を託したのは、たった一人の姫……女王様でした。

 女王様は、もう満月の魔法に守られた鈴鳴り姫でも、新月の魔法に変えられた銀の騎士でもありません。ありのままの、心やさしい美しい人でした。

 女王様の慈愛に満ちた微笑は、どのような逆境にも負けない勇気を人々にあたえ、見る人を幸せにしました。

 なので、この国は幸福なときはもちろん、不幸が襲ったときでさえ、皆、くじけることなく乗り越え、不幸を幸福に変えることができたのです。 


 民人は、皆、ため息をつきながら、どうして女王様はいつも綺麗なのだろうと思うのでした。

 それもそのはず。

 女王様の結婚相手は、まったく強い戦士ではありませんでしたが、美を作り出す魔法の指先を持っていましたから。

 そして女王様を心から愛していましたから。


 ==エンド==

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鈴鳴り姫と銀の騎士 わたなべ りえ @riehime

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