恋愛小説家ヤクザ

かたかや

恋愛小説家ヤクザ

 オレはヤクザ。恋愛小説を執筆したせいで親分に命を狙われている。

 横暴だと思うだろ? 仕方ねえやヤクザっていうのはそういう生きもんなんだ。

 この間なんて西野カナを聞いていた子分が兄貴分にやられちまった。

 ちくしょういいやつだったのに。オレにDarlingを進めてくれたのは奴だった。

 そしてオレを狙うヒットマンもまた堅い男で漫画はワンピースしか認めないと来た。

 そんな組織に殺されてたまるものか。

 オレは地下鉄の構内を全力で走りぬける。

 ダンダン!

 銃声。

 オレを狙ったのだろうがまったく当たらない。

 そういえばオレの書いた小説にもこんなシーンがあった。

 地下鉄で手を引き合って走るカップル。その二人を恋敵のダリオが猟銃で狙う。

『止まれ! オウムのような柄になりたいか!』

 二人は走り続け愛を誓う。ジュテーム。

 思い出すだけでキュンキュンする場面だ。あの場面だけで5000部売ったと言っても過言ではない。

 売店のおばちゃんが撃たれた。

 いつもオレに駅スイーツを売ってくれるおばちゃんだ。

 ヒットマンはそれを知って、オレをおびき出すためにおばちゃんを撃ったのだ。

 サラリーマンにスポーツ新聞を渡す笑顔のまま死んでしまっている。

 合唱。

 ふざけるんじゃねえぞ! おばちゃんの笑顔で何度小説の筆が進んだと思ってやがる! 彼女を題材に執筆した短編は数知れない。

 オレは懐からトカレフを取り出した。

 グリップ部分に安っぽい星のマークが入った拳銃を銃弾が飛んできた方向に向ける。

「出てこいヒットマン! ええ! 聞いてんだろぉハート❤シューター!」

 いつも心臓を一発で撃ちぬくため彼はそう呼ばれていた。

 銃を振り回すオレを見て周りの客達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

「虎のように吠えるな田尻」

 しゃがれた声が聞こえた。

 黒いスーツにこれもまた黒い帽子を被った男がライフルを腰だめに構え群衆の中から現れた。初老を伺わせるその顔には一筋の傷が刻まれている。

「いや、田尻ではなくホイップクリーム☆美咲と呼ぼうか?」

 猛禽類を思わせる鋭い眼光で田尻を射抜く。

 負けじと睨み返す田尻。

 睨み合いの迫力はさすが極道といったところか。

「ワンピースだの恋空だの、この時代任侠で飯が食えるかァッ!!」

 ホイップクリーム☆美咲が吠えた。

「極道モンが筋通さなきゃあ、ただのクズだぜ、ええ?わけえの……」

 ド   ン  !!

 ハート❤シューターはホイップクリーム☆美咲の心臓に狙いをつける。

「相容れねえな……」

「みてぇだな……」

 二人が引き金に指をかける。

 その時。

「ぱぱーんぱーーぱぱーーーー」

 どこからとも無くトランペットの音が聞こえた。

 このイントロはッ!!

「ウェカトゥようこそジャァパリパァ↑ク! 今日もドッタンバッタン大騒ぎッ!!」

 アコースティックギターを弾く男が二人に歩み寄る。

「お前は大石!!」

 大石は西野カナを聞いていて始末されたはずの後輩だ。

「どうして……」

 予想外の人物に田尻が戸惑いながら尋ねた。

「オイラ死んでなかったんス。シガレットの兄貴はオイラを殺さなかったんス」

 ジャジャン♪

「シガレットの兄貴も西野カナ好きだったから」

 シガレットのやつ、親分に黙って……。

「だからオイラシガレットの兄貴の面子を立てて西野カナは卒業しました。これからはけものフレンズっス!」

 イエズス会みたいに大石は言う。

「お二人もどうッスか?」

 両の手を二人に差し伸べる大石。

 そうか、これからは個性を認め合う時代か……。

 ワンピースと恋愛小説の中間点がそこにあった。

「頼むぜ大石」

「俺は認めねえ!」

 ハート❤シューターが大石にライフルを向け発砲した。

「ぐわああああああああ」

「おおいしいいいいいいいいいい」

 ホイップクリーム☆美咲がハート❤シューターに向かって発砲する。

「返せええええ!!! 大石を返せよおおおおおおおおおお!!!!」

 バンバンバンと三連発。コロラド撃ちでハート❤シューターの命を絶つ。

 トカレフを捨てるとすぐさま大石のもとに駆け寄った。

「大石! 大石ぃ!」

「田淵さん……まるで駄目なおれを……西野カナが好きなことを隠してくれて……ありがとう……」

「おおおおおおおいしいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 大石は死んだ。ぉれはチョーシ立ィた。

 糸且長わ糸色文寸マヂュノレ+ノン。

 組長も俺の恋愛小説で殺した。最期の言葉は「俺にこんな青春無かった。俺の人生糞だ」だったらしい。

 俺も同じ意見だ。

 でもな、俺は幸せかもな。

 仁義ある戦いをしたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛小説家ヤクザ かたかや @katakaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ