第二十四計 軍師、自分はまったく戦わない、つもりらしい
2回戦目のゲーム、スタート!
「じゃ、あたしは行かないから、あとはよろしく」
とシボーさん。
「よし、行こう」とめちゃくちゃ乗り気な毛塚主任が八重垣さんと右翼から突撃する。
「よし、玄徳、こっち」と人を弾除けにする気まんまんの零花に指示されて、玄徳は左翼から突撃。
戦局は恐ろしいほどシボーさんの予想通り。
レッド・チームは全員がベース基地のなかで、窓から銃口たげだして専守防衛の態勢。その姿をみてげらげら笑っている零花。
敵がベース基地にこもっているため、途中まで安全に進める。そして、最終バリケードの手前。
考えてみれば凄い話だ。ちょっと配列を見ただけで、シボーさんは敵味方の攻撃ルートを予測していたわけだから。ここまでは銃撃なし。だが、最後のバリケードに隠れるためには、敵のビームに身を晒すことになる。
隠れているこちらに向けて、敵が銃を乱射している。
「行こう」
隠れながら、ささやく零花。玄徳はうなずき、響いた銃声のあと、最後のバリケードに向かって飛び出した。が、直撃! 頭に振動がくる。
「ぎゃー!」
悲鳴をあげるが、その玄徳の襟首をつかんで無理やりわが身の盾として走らせる零花。死体にムチ打つとは、伍子胥顔負けの動物アイドルである。
二人してもつれこむように、最終バリケードの影へ飛びこむ。
『ブルー・チーム着弾!』
アナウンスが響く。
はあはあ息をついている玄徳の肩に手をついて、外の様子を盗み見る零花。
敵のベース内が混乱している。右翼で、八重垣さんが飛び出したらしい。
「今だ!」
玄徳のヘッドギアを乱暴に小突く零花。
『レッド・チーム着弾!』
アナウンスにかぶせて、飛び出す。
二人して、最終バリケードから縦一列に走り出し、敵のベースのコの字の壁の内側をめざす。窓から突き出た銃口が玄徳を狙うが、玄徳たちが奥に入り込んでいるため、射角がとれない。あわてて、ベース基地から飛び出した島崎くんが、わが身をさらして玄徳へ銃を向ける。が、その様子は予測できた。玄徳は走りながら島崎くんを射撃。
撃たれる島崎くん。バイブレーターが作動し、3秒間戦闘不能。
が、カバーに回った大道寺さんが、ドヤ顔で玄徳を撃つ。
着弾し、バイブレーター作動する玄徳だが、止まらない。
「おい、ちょっとそれ卑怯……」
大道寺さんが声を上げるが、もう遅い。玄徳の背後から飛び出した零花が走り込み、バタつくベース内。反対側からは奇声を発した毛塚主任も突撃してきている。
が、低い体勢で走る零花の速度は、さすがアイドル、アスリート並。
あっという間に飛びこんで、敵のクリスタルを一撃。赤いクリスタルが点滅し、青い光を放った。
『レッド・チームのクリスタルが破壊されました。ブルー・チームの勝利です』
アナウンスが流れる。
「やったー!」零花が飛び上がって喜ぶ。
走ってきた毛塚主任もジャンプして大喜び。零花と二人してハイタッチし、小躍りのダンスでぐるぐる回っている。
「おい、今のは卑怯だろう」
あとから玄徳たちの戦法にクレームをつける大道寺さん。卑怯も何も……。
玄徳は笑って答える。
「兵は詭道なりですよ」
そして、そこへ拍手しながら姿を現す係りのお姉さん。
「さすかですね、ブルー・チームさん。いまのは、上位プレイヤーの間ではデフォルトの戦法なんですが、今日初めてプレイする方が思いつくなんて、素晴しいです。どうですか、今度やる大会に出場してみませんか?」
と誘われてしまった。
「いやー」頭をかきながら、玄徳は後ろを振り返る。
やる気なさそうに、銃をぶら下げてくるシボーさんの姿が見えるが、あの人がこのゲームをつづけるとは思えない。
それにもうすぐ、うちの店から去ってしまうわけだし。
そう思った瞬間、玄徳の心の中を、なんとも冷たい風が吹き抜けていった。
もうすぐあの人とお別れなのだ。
これで、いいのか? このままでいいのか?
ほんとうに、送別会をしなくていいのだろうか?
それがシボーさんの望みではあるが、本当にそれでいいのだろうか?
いや、やはりやろう。絶対に。
なぜなら、それが玄徳の気持ちなのだから。
そう。この人を騙して、送別会につれていく。兵は詭道なり。そう教えてくれたのはこの人ではないか。ならば、その教えに従って、この人を騙そう。
玄徳は、シボーさんの細い後ろ姿をじっと見つめた。
──ぼくはやります。あなたの送別会の幹事を。そして、絶対に成功させます。あなたのために、ぼくはあなたを騙す!
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