第二十三計 軍師今度は攻める、つもりらしい
ビービーとフロア内に警報が鳴り響く。赤いライトが明滅し、緊急事態を告げてくる。いよいよバトル・スタートだ。
スタートど同時に、敵陣から何人かが飛び出して走ってくるのが、バリケードごしに見える。
ベース基地の壁の中に隠れた8人は、銃を窓から構えて待つ。
あきらかに緊張している様子の筒井さん。すでに楽し気にトリガーを引いて発射音を響かせているのは宮園零花。
「落ち着いて、よく狙おう」
玄徳は声を掛ける。
「敵の弾はこっちには当たらない。そして、さっきシボーさんがいったポイントで、必ず姿をさらすから」
最初に飛び込んできたのは、運動神経抜群の島崎くん。
だが、「バウン」という効果音が響いて、「ぎゃー」と悲鳴を上げて立ち止まる。
だれかの弾が彼をとらえ、アーマーのバイブレーターが作動したらしい。
「やった!」零花が声を上げる。
「さすが、アイドル」
毛塚主任が変な褒め方をするから、零花が調子にのる。
「これからは、スナイパー・アイドルと呼んでください」
『レッド・チーム着弾』
アナウンスが流れる。
そして、反対側。飛び出してきた大道寺さんが、筒井さんに撃たれる。
「うわっ」と呻いて、慌てて逃げ戻る大道寺さん。その姿が滑稽で、筒井さんがけらけら笑っている。
『レッド・チーム着弾』
またも流れアナウンス。
「なんか女子ばかり活躍してるな」
ぼやいた八重垣さんが、ふたたび頭を出した大道寺さんを撃ち抜く。
「あうっ」
情けない声を上げて、また逃げ出す大道寺さん。
「彼のやられっぷりは、さすがだね」
笑いをこらえきれない毛塚主任。
そのあとも、レッド・チームの猛攻は続いたが、出るたびに玄徳たちブルー・チームの狙撃にあって、撃退。敵は3人のプレイヤーが3発喰らって戦死による戦闘不能。お互いベース基地のクリスタルは落とされることなくタイム・オーバー。
戦死者の数により、ブルー・チームの勝利となった。
「やったー」
玄徳たちは万歳して、飛び上がり、たがいにハイタッチをかわす。負けた大道寺さんたちレッド・チームは心底悔しそう。まあ、勝つつもりでいたのだろうから、当たり前だが。
「どうせ、大道寺たちのことだから、攻撃と防御で4人ずつにチームを分けてたんだろう」一人シボーさんだけが、冷静。「が、こちらは8人全員で防御にまわった。つまり、有利な防衛戦で、8対4の、2倍の兵力で戦ったのさ。これが世にいう各個撃破だ。兵法の基礎の基礎だよ。負けるはずがない」
時間がまだ余っているので、もう一戦ということになった。チーム編成は変えず、このままでいこうということになる。
どうやら、島崎くんも大道寺さんも、負けたのがそうとう悔しかったらしい。今回はリベンジするつもりだろう。
「今度はどうします、シボーさん?」
もういきなりバイトの女子に指揮をまかせる毛塚主任。まあ、妥当ではあるが。
「今度は攻める」
「へ?」
みんながキョトンとした。そりゃそうだ。攻めるのは難しいって最初に言ったのはシボーさんだから。
「でも、敵もさっきうちが取った戦法を真似してくるんじゃないですかね?」
八重垣さんが至極真っ当なことをきく。
「絶対真似してくるな」
というシボーさんの顔は、悪魔的な笑いが張りついている。
「じゃあ……」玄徳は首を傾げる。攻めようがないじゃないですか……の言葉は飲み込んだ。
「敵はさっきあたしたちが取った、8人全員ベースの中にいる戦法を取るだろう。対してうちが攻めるのはさっきあたしが言ったルートしかない。一番奥のバリケードまで走り、そこから奥の壁ぞいに敵のベースの中まで侵攻する。クリスタルはベースの中にあるから、その間は敵に姿をさらすことになる」
「撃たれちゃうじゃん」
零花が口を尖らせる。撃つのは好きだが、撃たれるのは我慢ならない様子。
「うん、そうだ。だから、二人一組になって攻める。まず最初の撃たれるポイント。最終バリケードの前。そこは一人が弾除けになる。ライフをひとつ失うが、確実に進む。弾は同時に何発喰らっても、うばわれるライフはひとつだ。一発撃たれよう。で、バリケードの中に入る。そこから壁際に出て、ベースの中まで突撃する。一人が前で弾除け。もう一人は後ろに隠れて」
「凄い作戦だね」
筒井さんが感心する。
「いいか、よく聞け」
シボーさんは楽しそうに説明する。
「一度撃たれたらライフをひとつ失い、バイブレーターが作動するが、その間は無敵状態だ。さっき見ていて分かったんだが、撃たれてしばらくは、着弾判定がない。つまり無敵状態だ。その間に、撃たれた奴を盾にして進め。あとひとつ、敵が銃を撃ったら、発射音がするだろ? この銃は赤外線を放つんだが、連射はできない。バウンという音がしたら次のビームが放てるようになるまで、一秒かかる。一人が撃たれて無敵状態のうちに二人してベースに駆け込み、敵がトリガーを引いて次弾が撃てるまでの1秒で、敵ベースに突入して、クリスタルを撃て。それでこちらの勝利だ」
「おおー」
シボーさんの解説を聞いて、玄徳たち8人はちいさく拍手した。
そして、2回戦のゲームがスタートする。
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