第二十二計 軍師、専守防衛する、つもりらしい


 ゲートの奥に案内されて、2チーム一緒に説明を受ける。

 けっこう広い室内がバトル・フィールド。学校の教室ふたつ分くらいか。

 室内は薄暗く、青や紫のスポットライトや、赤いレーザー、ブラックライトなどが怪しく光っている。右と左に、ブルー・チームとレッド・チームのベース基地があり、その間のフィールドには多数のバリケードが接地されていた。


 係りのお姉さんから人数分のレーザー銃とアーマー、ヘッドギアが渡される。

 銃はトリガーを引くと、赤外線が発射される仕組み。アーマーとヘッドギアには受光部があり、そこに赤外線か当たるとバイブレーターが作動し、着弾の衝撃がプレイヤーに来るのだそうだ。


 3回敵のビームを喰らうと、戦死。また、味方が敵のベースのクリスタルを銃で撃つことに成功したら、チームの勝利。15分の時間制限の中、敵のベースのクリスタルを打つことが出来なかった場合は、死者の少ないチームが勝ちというルールだ。


「これ、射程距離はどれくらいあるんですか?」

 係りのお姉さんの説明が終わると、シボーさんが質問する。めちゃくちゃやる気じゃん、この人。


「50メートル近くありますから、バトル・フィールド内で届かないということは、ないはずです」

「ふーん」

 少し考えながら、シボーさんはいきなりヘッドギアを装備した玄徳の頭を撃ってきた。

 ビィィィィィィーーーーーーン!

「ぶきゃぁぁぁぁーー!」

 強烈な衝撃と振動が玄徳の頭を襲う。ヘッドギアに装備されたバイブレーターが作動したのが。予想外に強烈な振動である。

 彼の大げさなリアクションを見てみんなが笑う。だが、試しにビームを喰らってみた島崎が「うおっ!」と叫び笑い出す。やはり予想外の衝撃だったらしい。


「ゲームが開始されますと、安全装置が働きまして、味方の着弾にバイブレーターが反応しなくなります。敵に撃たれたときだけ、振動がきます。また逆に、味方を撃ってもスコアにはなりませんから、ご注意ください」


 係りのお姉さんの指示で、チームごとに分かれる。レッド・チームはレッド・ベースへ、ブルー・チームはブルー・ベースへ。

 歩き去る敵チームのリーダー島崎くんが、大道寺さんと話しているのが聞こえる。

「じゃあ、それぞれ左右に分かれて突撃しますか。鶴翼陣で攻めて、包囲すれば楽勝でしょう。俺と大道寺さんで、味方を率いて突撃しましょうよ……」


 一方、玄徳たちブルー・チームには先陣きって敵に突っ込むタイプの人材はいない。ぞろぞろとチーム・メンバー8人でブルー・ベースへ向かっていると、隣を歩く毛塚主任が玄徳にたずねてくる。

「うちはどういう作戦で行く?」

 答えたのは、玄徳のうしろにいたシボーさん。

「専守防衛です」

「でも、守っていたら、敵のベースのクリスタルを撃てないでしょ」

 毛塚主任がまっとうな反論をする。

 が、シボーさんは、ベース基地を指さして答えた。

「このベース基地は、防御が固いです。攻めてもなかなか落とせない」


 奥の壁際にあるベース基地とは、三方をコの字形に壁で囲まれており、クリスタルはその中央の台座に乗っている。このクリスタルにビームを喰らうと負けなのだが……。


「ここまで敵が中に入るのは容易じゃありません。また、この壁に開いている窓は、幅が狭いです」

 シボーさんに指さされて、壁に開いた窓を着目する一同。

 窓といっても、横に細長い銃眼みたいな隙間だ。十分な視野があるともいえないが、近づく敵がいたら発見するのは容易であろう。


「この奥で銃を構えれば、自然と壁が、ヘッドギアとボディーアーマーの受光部を隠してくれます。つまり、近づく敵に撃たれることはない。ここにみんなで陣取って、とにかく攻めてくる敵を撃つ。配置されたバリケードの地形から、中央突破はできないから、敵は左右に分かれて攻めるしかない。だから、こちらの8人を左右4人ずつ、左右の窓に配置して、とにかく攻めてくる敵を撃つ」


 そういって、シボーさんはベース基地の位置から、配置されたバリケードの切れ目を指さす。


「あそこと、あそこ。左右対称なレイアウトだから、どちらも同じ。敵はあのバリケードの手前で必ずこちらの火線に姿を晒します。みんな落ち着いて狙って。外しても問題なし。あのバリケードから出ることできないから。出てきたら、このベースまで5メートル。隠れるところのない場所を、まっすぐ走るしかないから落ち着いて射撃。安心して、こちらは受光部を隠しているから、撃たれないから」


 シボーさんの説明を、女子の筒井さんと零花が、うんうんと聞いている。

「シボーさん、さすが軍師。策士だねえ」

 八重垣さんが感心しながら、バリケードの配置を見ている。

「たしかに、あの2カ所では姿をさらすし、ベースに突っ込むならこのコースしかない。みんな、焦る必要ないから、落ち着いて狙っていこう」


「では、敵のベースは狙わないんですね?」

 玄徳が確認する。


「狙わない。孫子にいわく。『その守らざるを攻める』でしょ。守っているところを攻めても、無駄。それより、ここは攻めてくる敵を倒してポイント勝ちを狙うべきだな」


「うーん、やっぱ策士だねえ」

 毛塚主任も感心している。


 やがて、フィールド内に放送が入る。



「それではみなさん、各チームごとに分かれましたか? それでは……、ゲーム・スタート!」


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