第二十一計 軍師、銃撃戦に勝つ、つもりらしい
遅番が出勤してきて、早番の玄徳と交替。残業してやる仕事もないので、2レジのメンバーは全員定時あがり。
休憩室を抜けて奥のロッカーへ進もうとした玄徳は、壁に吊るされたメンバー表をみて、ぎょっとなった。
人数が増えていた。
島崎、玄徳、ガンタ、大道寺、シボーさん。その5人の後に、ずらりと名前が並んでいる。
遅番の塚田くん、大澤さん、早番の筒井さん、なぜか八重垣さんの名前まである。この人たち、これが光線銃を使ったサバイバル・ゲームであると、ちゃんと理解しているのだろうか。
「あ、おつかれさまー」
鈴の鳴るような綺麗な声で、宮園零花があがってくる。
「あ、そうだ。それ、あたしも参加します」
と手を伸ばして、メンバー表を玄徳の手からとりあげて、ボールペンで自分の名前を書き込んでいる。
「え? 宮園さんもでるの?」
「出る。この日は仕事入ってないから」
「え、でも、サバゲなんだけど」
「うん。でもシボーさんの送別会なんでしょ」
「えっ」
「ちがうの?」
「ちがうよ」
「あたしの送別会は、無いよ」
売り場からもどってきたシボーさんが横から声を掛ける。
「あ、ちがうんだ」零花は納得した様子だったが、参加は取り消さなかった。「でも、これが最後の機会だから、参加します。いいですよね、別に」
ちらりとシボーさんを振り返るが、アラサーの眼鏡女子は「ふん」と鼻をならして、「そんなのは好きにすればいいさ」と、ロッカールームの方へ去ってしまう。
「いや、これ。シボーさんの送別会じゃないですから」
玄徳は説明したが、職場のみんなの誤解は解けなかった。
まあ、そこは仕方ない。これは公式にはシボーさんの送別会ではないのだが、シボーさんが参加すること。そして玄徳が幹事をやっているらしいことから、参加者がどんどん増えていった。
これは幹事である玄徳へのみんなの「信頼」と、主賓であると誤解されているシボーさんの「人徳」であると言わざるをえない。
が、参加したいという人を断ることもできず……。
「じゃあ、木曜日の予約たのむよ」
帰り際、着替えたあとで、店への予約を島崎くんにお願いした。
「16人で」
「えっ、16人もいるの? なんで?」
「まあ……」
玄徳は肩をすくめる。
「シボーさんの人徳かな?」
シボーんさん。あれであんがい、人徳があったということである。
当日は、全員で百貨店の従業員入口に集合することにした。
仕事の終わった早番と、バイト休みなので直接来た遅番、さらに有給を取っているはずの毛塚主任もワイシャツにネクタイ姿でやってきた。
「毛塚主任、ほんとうに参加するんですか?」
なにかの誤解じゃないかと心配になったが、頭に白髪が混じるいい歳の主任は嬉しそうな笑顔。
「いやー、こういうの好きなんだ。あと
これはシボーさんの送別会ではない。ただのお遊びでみんな集まっているだけだ。だが、シボーさんが参加するため、これを送別会と認識して参加している人もいる。しかし、シボーさん自身は、自分の送別会はやらなくていいと言っているのだ。
だが、それでいいのだろうか? やはりちゃんとした形でシボーさんの送別会を開きたい。でも、当人が拒否しているのだから。
「これが送別会かわりになるのかなぁ?」
そんなことを考えつつ、集まった16人を従えて、玄徳は西口にあるモンジャタウンへとみんなを誘導していった。
会場は巨大なアトラクション施設。そのなかに『レイ・ザー』のコーナーがあり、受付ブースがある。まず外で受付をして、そののちに改札機を抜けて、バトル・フィールド内にすすむシステムだ。
ここで受付とともに、簡単なチュートリアルも受けることになる。
未来人みたいな制服のミニスカお姉さんの指示で、玄徳たち16人は2チームに別れる。チーム分けは、あらかじめ島崎くんと大道寺さんがしてくれた。それに合わせて、チームごとに分かれ、左右のゲートから薄暗いフィールド内に入ることになる。
玄徳たちはブルー・チーム。シボーさんや、筒井さん、零花や八重垣さんがいる。あと毛塚主任とか。
いっぽう島崎くんはレッド・チーム。
大道寺さんやガンタ、遅番の塚田くんや大澤フーちゃん、契約社員の滝沢くんや佐々木くんもいる。
「大道寺のやつ。勝てるメンバーを自分の方で押さえてきやがったな」
ゲートをくぐりながら、シボーさんが玄徳の背中につぶやいている。
「このチームが負けると決まったわけではありませんよ」
「ふん、バカを言うな」不機嫌に鼻をならすシボーさん。「あんなへっぽこな軍事理論を語る大道寺なんかに負けられるか。勝つぞ、玄徳」
「そんな無茶な」
つーか、ノリノリじゃないですか、シボーさん。
でも、本当に勝てるんだろうか?
たしかに運動神経の良さそうなメンバーはすべて敵側へ取られている。こちらに回されているのは、どうみても戦力にならなそうな女子とおっさんばかり。
これで勝てるとは、思えないのだが。
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