第4話始まり

ギィー、、、ガチャリ。重々しい扉の閉まる音が僕の背中を押した。(始まった、、、)そう思った。

目の前には帰路につく足早に歩く人たちがアリのようにいた。そんな群れの中に僕も吸い込まれるように歩き始めた。

「長いこと話したなぁ、、、」頭の中で先ほどの内容を整理しようとしたが、その前に時間が気になり腕時計を見た。

「二十一時十分?」自分の目を疑いスマホでも確認してみたが結果は同じだった。

「ヤベーな」素直な感想が口から出た。どう考えても一時間以上は話していた筈だからだ。

(ブランチさん何者なんだ?)

そんなことを考えながら駅へと急いだ。

アリ達は容赦なく目的達成のために動いていた。僕もその中のひとりだが、、、。

(さて、、何をすべきか、、、)そう考えながら歩いていると、明らかに周りのアリとは違う動きをしている男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「ズズズッ、、、ベチャ。。ズズズッ、、、ベチャ。。。」奇妙な音をたてながら、昔映画で見た貞子のような歩き方をしている。

「週末だし、結構酒呑んだんだろうなぁ、、でもあれはヤベーな 笑、加トちゃんか、、」 含み笑いをしながら呟いた。

「ズズズッ、、、ベチャ。。ズズズッ、、、ベチャ。。」近くに連れ奇妙なリズム音は大きくなってくる。

僕は笑いを堪えながらすれ違おうとした。良くみると全身ビチャビチャに濡れていた。

「明日くるお客さんの話のネタにでもしようかな、、」と面白半分、好奇心半分で顔を見ようとした。

その瞬間、貞子男は僕の方をギロッと睨み、「俺が見えるのか」と苦しそうに言葉を吐いた。

一瞬何のことかわからなかったが、そのセリフが僕に向けられたものと理解するのに二秒もかからなかった。

「へ?」精一杯の理解した“へ?”であり、恐怖のあまり乾ききった“へ?” でもあった。そしてちびまる子ちゃんのまるちゃんぐらいの引きつり様だった。

顔はブヨブヨにふやけ、左目はどこかへ忘れてきたのかなくなっていた。(加トちゃんじゃないじゃーん!)心の中で叫んだ。お互い見つめあったままだ。

どうする?というかどうしよう、、、どうしよう、、どうしよう!!!ブランチさんのところへ戻るべきか。。そう思い踵を返そうとしたが、

何故か道順が思い出せない。ポケットの名刺も手探りで探すが指先で捉えることができなかった。

全身が震えだした。今日がハロウィンであってほしいと願ったことは後にも先にもこの日だけだろう。

「い、いや、、、見えてません、、、」蚊の鳴くような声でわかりやすい嘘をついてみた。

貞子男は不敵な笑みを浮かべた。「のまれる」直感的にそう思った。その時だ。

「落ち着け」

僕の頭の中でそう聞こえた。そしてまた出た。「へ?」

「落ち着け」すぐ二回目が聞こえた。どうやら味方っぽ気がする。というか、この状況ではそう思いたい。。

「わ、わかりました。。落ち着きます。。。」深呼吸を大きく一回し、その後の指示を待った。

(、、、、、、)

何も聞こえない。。徳永英明ばりの“何も聞こえない”

「あ、あのぉ、、、僕はどうすれば、、、?」

ズズッ。。貞子男が半歩詰めてきた。

「ちょっ、、、ちょっ、、ちょっとま、、」

ズズッ。。もう半歩詰めた。そして何の躊躇もなくドロドロに溶けた右手を僕の心臓目掛けて伸ばしてきた。まるで僕のそれを奪い取るかのように。。

「お前をもらうぞ、、、」苦しそうにそう言った。

動けなかった。ただ現実離れした物体を後悔しながら見ることしかできなかった、、里美、、凛、、ごめん。。。

明日のYahoo!ニュースの見出しが頭に浮かんだ。その時だった。僕の額の傷が激しく痛んだ。

「っつ!」痛さのあまり思わずそう言った。貞子男の右手は僕の中に半分ほどめり込んでいた。

「一度だけ助けるぞ」やっと聞こえた声だ。そして次の瞬間、貞子男の顔は怯えた表情で叫びだした。

「ゔゔぁゔぁゔぇゔぁーーー」

「へ?」 またでた。

「許してくれ、、頼むから、、ゔぁーーー」

天の声(仮)が聞こえてからあっという間の出来事だった。黒い渦が現れその中から人とも知れぬモノが出たきたかと思うと、貞子男に絡みつき

なんの躊躇もなく渦の中へ引き込んで行った。


ザワザワザワザワ。。アリ達の気配が僕の意識中に入ってきた。その気配にハッとし、自分が現実世界にいることを確認した。

「あ、あ、ありがとうございました」とりあえず天の声(仮)に言ってみた。案の定何の返答もない。

「そりゃそうか。。」なんとなく自分を納得させようと思って呟いた。

足が震えている。深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「ヤバかったな、、死ぬかと思った、、。にしても、周りの人達に貞子男は見えてなかったんかなぁ、、見えてなかったんやろうなぁ。ちゅうことは、

”独り言言ってる風“に見えてたってこと? めちゃめちゃヤバ目なヤツやん。。」

そう思った僕は、恐る恐る周りを見渡してみた。

そこには、アリのように群れ足早に帰路を目指す人達、酔っぱらい、スマホをいじりながら歩く人、キラキラと輝くネオン。。。

何一つ変わらない光景が広がっていた。

あんなに恐ろしい出来事がここであってたのに、ひとり明らかに可笑しな動きをしてたはずなのに、、誰一人、何事もなかったかのように各々の時間の中にいた。

そう。何の関心もなく、何も見ていなかったのだ。

「人間っていったいなんなんだ、、、」

そう呟き、震えが止まった足を駅へと向け歩き出した。


































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内緒 オヂ カンモン @manabin

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