第3話夢の真相

木の廊下に二人の革靴の音が響く。

よくわからない絵が何枚か飾られ、入口の扉横にあったのと同じロウソク型のランプが三本、等間隔で壁に並び空間を照らしていた。

右手側と正面に扉があるとこまで歩くと、白髪の男性は静かに正面のドアノブに手をかけ、「こちらでーす」と予想を覆すテンションで扉を開けた。

中は几帳面に掃除されている。それと、物がひとつひとつにポジションがあるかのように置かれていた。

アンティーク物の丸テーブルと椅子。そこへ座るように促され素直に座った。(言うことを聞いておかないと僕の脱出シュミレーションが機能しなくなる)

「はじめまして。Time-Blanchです。ブランチさん、、とでも呼んでもらいましょうか」

「よ、よ、よろしくお願いします、、、ブランツィさん」(口の中が相変わらず水分ゼロなので思わず噛んだ)

「ふふ、、まぁそう緊張なさらず。紅茶でも淹れましょう」そういい、ブランチさんは手際よく紅茶を淹れはじめた。

「いただきます、、美味しい!」おもわずでた感想。

「だしょ?」だしょ?って、、昭和やな。顔に似合わずお茶目なのかもしれない。

しばらく紅茶を楽しんだ後、ブランチさんが切り出した。

「さて、少し落ち着きましたか? そろそろ本題に入りましょうか、、、」

空気が少し揺れた。気がした。。

「一馬さん?でしたっけ?」

「は、はい」(名前教えたっけ?)

「今日ここへ来ることは決まっていました」

「え?」

「え?じゃなく、決まっていたんです」これがドヤ顔だと言わんばかりのドヤ顔。

「そして、、先ほども言いましたが、お伝えしなければいけないことがあります。長いこと変な夢を見てなかったですか?」

すぐにあの夢が浮かんだ。

「はい、ホントによくわからない夢で、、、真っ暗な中に、金の玉?みたいなのが浮遊してるだけの夢なんです」

ブランチさんがふと微笑んだように見えた。

「その続きを今日お話しします」

「よろしくお願いします」また口が乾きそうになったので紅茶で潤すと、ゆっくりとブランチさんが話し出した。


「これからお話しすることは、、真実です。信じるか信じないかは一馬さんの心で判断してください。それではいきます」(ニッと笑った)

「宇宙ができるもっと前、この空間は真っ暗闇でした。漆黒の闇、、と言えば表現が伝わるかもしれません。。。そこにひとつのエネルギー体が誕生しました。金色に光り輝くエネルギー体です。まだこの時、このエネルギー体は意思をもっておらず浮遊しているだけでした。一馬さんが見ていた夢はここまでのはずです」

「ですです!まさにそんな感じです!」

ブランチさんが、またニッと笑い紅茶で口を湿らせた。

「では続きを。。。長い間浮遊していたエネルギー体は少しずつ意思を持つようになりました。そしてある日、そのエネルギー体は沢山の玉を吐き出すかのように無数にこの空間に撒き散らしました。これが後の地球、土星、海王星、月、太陽、植物、水、微生物、虫、動物、ありとあらゆる惑星と生命体です」

「この時に宇宙ができたんですか?」

「そういうことになります」

僕は何か映画を見ている感覚に陥りそうになっていた。

「“玉を出しきったエネルギー体の中に宇宙が出来上がった”とでも言った方が理解しやすいかもですね。ここまでは何の問題もなく“宇宙空間”というものができただけだったのですが、、、黄金のエネルギー体は何故か意思を持った無数の玉達をお作りになりました。こ途方も無い時間をかけこの玉達は学習し成長していきました。“人類“というものを作るには必要だったのかもしれませんが、、、これが問題でした。。。」

「問題、、、?」

「はい。。黄金の玉もここまでは予想していなかったのでしょう。。”人類“を作るはずだった無数の玉達が争いを始めたのです」

「争い?善と悪との戦いみたいな感じですか?」

「まだこの時はそこまでハッキリとは別れてはいませんでした。”そうなりつつあった“という表現が適切だと思います」

「なりつつ、、、」

「はい。問題はここからでした。”悪になりかけていた玉達”の勢力が時を追うごとに大きくなりはじめてきたのです。このままではいけないと判断した黄金の玉は、ひとつだけ残しておいた金色の玉を惑星に落としました」

「落とした? どこにです?」

「、、、ここ地球にです」

「へ? 今までの話地球上で起きててんですか???」

(あまりの衝撃に思わず噛んでしまった)

「はい。。。その金色の玉が落ちた衝撃は物凄く、とてつもなく大きなクレーターを作りだしました。地球が割れるほどの衝撃でした。衝撃が収まりしばらくすると、クレーターの回りに玉達が集まりだしました。玉達はクレーターの中心に何かを感じたのか、玉達の全ての意識がその一点に集まりました。その時でした。。。一瞬光ったかと思うと、そのクレーターの中心から、赤ん坊が這い出てきたのです」

「またまたぁ〜 そんなことってあ、、」

ブランチさんの表情はヤバイくらい真顔だったのでこれ以上の言葉が出なかった。

「続けてよろしいでしょうか?」

「は、、、はい、、」

「這い出てきた赤ん坊は、心が求める方へと上がっていきました。そして登りきった瞬間、、、」

「瞬、、、間、、、?」唾を飲んだ。

「片方だけを選んでしまったので、完全なる善と悪がこの瞬間に誕生したのです」

「オーマイガー、、、」

「この日から、赤ん坊を守る側とそれを奪い返す側との争いの幕開けとなりました。この争いは何年も続きました。そして日を追うごとに悪の勢力は増していきました。残念なことにどの時代も悪は強いものです。。守る側も全力で守り一緒に戦っていたのですが、、、ある日、成長し青年になっていたあの時の赤ん坊は悪の攻撃をまともに食らい、、左顔面が吹き飛んでしまいました」

「オ、オ、オーマイ、、、マジで?すか?」

「ゲロマジです」

(ここへ来てそのセリフ、、、なかなか侮れない)

「守り抜くことが困難と判断した善側は、後世に願いを託すかのように隠すことを選択しました。もともと人間ではないですからね。形さえあれば消えることはありません。青年は、もう一度立ち向かう時が来るまで何年も何百年もの間眠りにつくことになりました、、、そして今に至ります。私がお伝えするのはここまでです。一馬さん、、おわかりになりましたか?これがあなたが見た夢の結末です」

「あの浮遊していたものがここまでの物語になってたなんて、、、面白かったっす!ありがとうございました!」

「、、、ちがーーーーーう!!!ちげーよ!」

「へ?」

「あ、申し訳ない、、、あまりにも、、何というか、、その、、馬鹿すぎて、、」

ブランチさんの顔がどことなく寂しそうだ。

「あ、、僕、、なんかピンときてませんね」

頷いてる。。。というかさっきから昔骨折した手首と額の傷がズキズキ痛む。

ブランチさんは話を続けた。

「この地球は、そんな玉達の争いの中、それとは別に生命の誕生も繰り返されていました。“人類”です。そして正義の玉、悪の玉達はその人類に宿り、今もなお戦いを続けているのです」

「隠した青年はどうなったんですか?」

「おー!やっといい質問をしてきましたね」

「、、、」

「青年も同じですよ。箱を見つけ人類に隠れ込み、時を待ち、今は戦っています」

ブランチさんがニタ〜っと笑った。

「箱って、、、?」

「箱は、人間の事です。人間には残念ながら寿命というものが存在します。なので、その寿命が尽きるまで、悪の玉との戦いは続きます。戦いと言っても、人間が今まで繰り返してきたような戦い方ではありませんが、、、まぁそこは追々知ることに、、、」

「ん?なんですか?」

「いや、、、」

ブランチさんが妙な表情を浮かべている。何か嫌な予感がする。。。

「箱を無くしたらどうなるんですか?」

「次を探します。その箱が無くなれば次を探し、またその箱が無くなれば次、、、と

何百年もの間繰り返され、今です」

「気が遠くなる歳月ですね、、いったいどれぐらいの玉の数なんですか!想像がつかない。。。というかなんでこんな途方も無い歳月かけて戦わないといけないんですか?意味あるんですか???」

「いい質問です。最初の話を覚えてますか?もともとはひとつのエネルギー体だったという話。悪の玉も青年の一部ということです。簡単に言うと、その玉を回収してるのです。それと、、、悪の勢力が増していくスピードが早すぎて、このままだとこの世界が大変なことになってしまうと、上が判断したからです」

「この世界って、、、当然地球(ここ)です、、よね、、、?」

カラカラだったが唾を飲み込んでみた。

「おっしゃる通り」

左手首と額の傷がズキズキさっきよりもと痛み出した。

「あ、言い忘れたましたが、、青年が身を隠し、戦うために入り込んだ箱は、必ず左半分に何かしらの症状が出ます。それは傷だったり、怪我だったり、麻痺だったりと人によるのですが。。。」

僕は呼吸と瞬きを忘れていた。

「一馬さん、、そろそろお気付きですか?」

「え?なにがですか?」我にかえる。

「わかりませんか?」

「えー、、、っと はい、1ミリも。。。」何かが来る。直感的にそう思った。

深呼吸をするブランチさん。ゆっくりと息を吐き出し、僕にこう言った。

「あなたが選ばれたんです」

心臓が跳ねた。

「、、、、、、」全く思考が働いてない。

「あなたの怪我、なぜ全て左側かわかりますか?」

「え?ただ鈍臭いだけと思ってますけど、、、」

「ただ鈍臭いだけで左側ばかり怪我するでしょうか?」お前は馬鹿かと言わんばかりの表情だ。

「ですね、、、」

「そしてあなたの額の傷。身に覚えがないのでは?」

「そうなんですよ!この傷いつからかできてて、、、ハリーポッターか!って感じですよね」笑ってみた。

「そんな傷、偶然にできると思いますか?僕がお話しした事を思い出して見てください何かに気付きませんか?」

「何かって、、、、、はっ」ふと、とんでも無いことが頭をよぎった。

「もうちょっとですね」どこか嬉しそうな顔。

「夢、、、傷、、、左側、、」

「そうです。青年は悪の玉を回収するために人間という箱に入り、その箱がなくなるとまた次の箱を探し回収し、なくなればまた探しを何百年もの間繰り返してきたでしょ?そして今、また箱を選んだんです。それが、、一馬さん。あなたです」

ブランチさんが話し終えた瞬間、僕の中の何かが、、全身を包み込むかのように弾けた。。。

「マジ、、、ですか」無駄な言葉だったが言わずにはおれなかった。

「はい。私はこの日を待ちわびていました。やっと見つけることができ、お伝えすることができました。私の役目は真実を伝え、金の玉である青年の存在を気づかせ、悪の玉を回収させることでしたので、、、」

「なんか、、よく飲み込めないです、、どうして良いかもわからないですし、僕美容師なんで髪切ることしかできないですし、、、」里美と凛の顔が浮かんだ。

「何も考えなくて大丈夫です。ただひとつだけやっていただくことが、、、“青年のの存在を認め自分の役目を受け入れる”ことです」

「そんな急に言われても、、その、、家族もいますし、、仕事も、、、」

「問題ないです。全てなるようになってますから」

どうやら逃げれそうもないようだ。。。

しばらく沈黙。そして大きく深呼吸して言葉を発した。

「わ、、わ、、わかりましたよ!やるしかないんでしょ??!!やってやろうじゃないですか!その回収とやらを!」

その言葉を発した瞬間、ドーーーーッン!と身体中に電流が流れるような衝撃をうけた。

満面の笑みのブランチさん。

「よく言ってくださいました。すでに現実的でないことが身体の中で起こってるはずです。これから毎日、、、というかここを出られてから不思議なことが起こり始めます。良いことも悪いことも、、です。まだ自分を、、というか黄金の赤ん坊へのアクセスがうまくいかないはずです。慣れるまでは見たくないものをみてしまいます。慣れてくればONOFFのスイッチで切り替えられるのですが。。。見えてるものに対して、決してあなたは間違ってないですから悩まず自分を信じてください。そして忘れないでください、あなたには幾千もの数の善の玉の仲間たちがいることを。その玉達にも全部ではないですが出会えるようになっていて、必ずあなたに力を貸してくれます。その出会いは偶然ではなく必然です。今日みたいに。。。」

そう言うブランチさんを僕は言葉では言い表せない妙な感覚で見つめていた。何処かであったような、それに近い感覚だ。

「大体のことはわかりました(ということにした)とりあえず今日は帰ります。なんか、、疲れました。また時間ある時にここへ来ても良いですか?」

「どうぞ。いつでも来られてください」優しく微笑んだ。

ロウソク型のランプが並ぶ廊下を歩き玄関の扉まで案内された。

「今日は急に、、その、、ありがとうございました」頭を下げた。

「この扉を開いた瞬間からあなたの使命が始まります。茨の道です。でもあなたならやれると判断したから、青年は一馬さん、あなたを選んだんです。そのことをお忘れにならないように」

「わかりました」

大きく深呼吸をし、、、

扉を開けた。


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