第2話出会い
「一馬おっはよー」同期の由美だ。
「お、おぅ。おはよー」
新宿駅から歩いて十分ほどの距離に職場はある。この辺ではそこそこ名の通った美容室だ。
今年からチーフを任されるようになり半年ほど経つが、、、なかなかしっくりこないのが正直なところだ。
「どうした?昨日奥さんと喧嘩でもしたか?」どこか嬉しそうに見える。
「んなわけねーだろ。お蔭様で夫婦円満だ。 また例の変な夢見ちまってさぁ、、気になって。。。」
「ぁ〜 例の夢ねぇ、、」
由美には同期ということもあり相談はしていた。チーフとしての立ち振る舞いにも悩んでいたからそっちもついでに。
モヤ〜っとした中、朝礼が始まりOPENの準備に取りかかった。
時計の針が十時を回り、ご予約のお客様が次々とご来店する。ありがたいことだ。
「松山さん、おはようございます」
「おはよぅ」関西弁のイントネーションがどこか心地よい。
「今日はどうなさいますか?」
「今日?そやなぁ、、、一馬くんにまかせるわ。カラーでもなんでもしてー。あ、ぼったくったらあかんで アハハ!」
このテンション。朝からステーキを食べる感じと似ているが、気を使わなくていいから毎回意外と食べれる。
「かしこまりました!では!一馬スペシャルでいかせていただきます!」
「なんやそれ!初めて聞いたで(笑) そんな武器持っとったん?。頼むで〜 」
とまぁ毎回こんな感じで施術は進んで行く。。。
カットが終わり、カラーを塗り始めたころ松山さんが口を開いた。
「一馬くん、今日はちょっと調子悪いんか?」
「お。さすがですね。というか見破られるぐらいじゃ僕もまだまだ修行が足りませね、、、」
「どないしたん?奥さんとケンカで、、、、、」
「してません!」ちょっとくいぎみに言う。
「じゃーなに?」
「また見ちゃったんですよ、、、あの夢、、、」
「あ〜 あれか。。。」
松山さんにはよく笑い話的な感覚で相談していた。なぜかしてしまっていたと言ったほうが正解かもしれない。
少し考えた様子を見せた後、いたずらっ子みたいな表情でこんなことを言ってきた。
「おもろいとこあんで (ニッ)」
「なんすかオモロイトコって。怪しさ満点なんですけど、、、」そして一枚の名刺を渡された。
“Time-Blanch相談所 ” 名刺にはそう書かれていた。
「タイム、、ブランチ?相談所? なんすかここ」
松山さんは困惑する僕の顔を無視するかのように満面のいたずら顔でこう続けた。
「ここな、おもろいおっさんがおってな(ニッ) まぁ〜なんちゅうか、不思議な話聞けんねん(ニッ)、一馬くんの顔見てたらここが一番ええかなぁ〜とおもて(ニタ〜)」
「怖い怖いこわい! そんな顔で言われて <はいそうですか、なら行ってみます>ってなりませんしwww」
「そうなん?残念やわ〜 ほんなら名刺返して、それ一枚しかないねん。今度どっかにおもろそうな人おったら渡すから」
言われるがまま僕は名刺を渡そうとした。でもどっか引っかかる。
(なんだ?この感覚)そう思っていると一瞬右の頬を何かが撫でた。
僕は少しパニックになりかけが、お客様の前。取り乱すことはできない。必死で動揺を隠し松山さんに伝えた。
「やっぱり、、、行きます」口の中がカラッカラだ。
「お!どないしたん急に!ホンマに?行くんか? アハハ。ならその名刺あげるわ。相談料が三十分三千円やから(ニッ)」
(その“ニッ“が気になるんだよなぁ、、、)
お会計を済ませ松山さんをお見送り。終始笑顔だった。
「Time-Blanch、、、」ポツリと呟いて見た。
モヤモヤした気持ちを抱え営業は進んでいった。営業後ミーティングの予定になっていたが、運良く?中止になり早く帰れることになった。
「由美おつかれー」
「おつかれ!気をつけてねー」いつもの言葉を交わし店を出た。
駅に着くまで歩きながら松山さんからいただいた名刺を眺めていた。裏を見ると簡単な地図と住所と電話番号が書いてあった。よく見ると、新宿駅から近く、店と反対側の降り口から降りて、路地に入ったところだ。
「こんなとこあったかなぁ、、、」新宿には詳しい方だ。でもさっぱり検討がつかなかった。
「まぁいいや。大体の場所はわかるから偵察がてら行ってみるか」
そう思い相談所めがけ歩いた。不思議と足取りが軽いのに気づいた。
少し迷いそうになったが、、、確かに、、、あった。
『Time-Blanch相談所』と木彫りの看板。
アンティークな両開きの扉。中を伺い知ることはできない。。。
扉の横にロウソク型のライト?がぼんやりと辺りを照らしている。
扉の近くまで寄ってみた。というか寄ってみたくなった。
ウルフ型のドアノッカーが付いている。(普通ライオンじゃないのか?)そう思ったが、、、
ゴンゴンゴン。気がつくと僕はウルフに取り付けてある輪っかを握り、なんの迷いもなくノックしていた。
(まずい!!!)そう思った僕はすぐに時計をみた。
二十一時七分。感情のない腕時計は淡々と時刻を告げていた。(いよいよまずい)
踵を返し足早に立ち去ろうとしたその時。
ガチャリ
重厚な鍵が開く音がし、僕の足を止めた。
そして、、、扉は開かれた。
ギ、ギ、ギィー、、、
ゾンビゲームで聴いたことある扉の音。
ゆっくりと振り向くと、そこには白髪で短髪の男性が弁慶みたいに立っていた。体系はがっちりしており耳は柔道家みたいに潰れていた。
(やばいかも、、、)そう思ったのと同時に、松山さんのイタズラっぽい「ニッ!」が浮かんできた。
「あ、、、、あのぉ、、松山さんにこちらの名刺をいただいて(口の中水分ゼロ)場所だけ確認しようと来てみたんですけど、、あの、、なぜか、、ノックしてしまって、、」
精一杯の言い訳。だが、無意識にノックしたのは事実だ。そして水分のない口の中。きっと口臭きつい。そんなことを考え名刺をお札代わりにするかのように男性に見せ返答を待った。
しばらく男性はそのお札、、いや、自分の名刺を見つめ記憶を辿っているようだった。
「あ〜、、関西弁、、松山さん。はいはい、電話もらってました。一人紹介してますって。あなたでしたか」
意外と声が高い。。言えないが、、、。
白髪の男性は続けた。
「どうぞ、お入りください。お伝えしなければいけないこともありますから」そういうとニコッと笑った。
入っていいものだろうか、、無事生還できるのだろうか、、、いろんな事が頭をよぎった。
そして、粗方脱出方法の趣味レーションが終わった後(この間二秒)ひとつのフレーズが僕の中を駆け巡った。
『オツタエシナケレバナラナイコトガアリマスノデ』
そして僕の脚は入口を跨いだ。
これからこの白髪の男性から”真実“を伝えられる事を知る由もなかった。
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