内緒

オヂ カンモン

第1話始まりのはじまり

そこは真っ暗闇だった。。。闇よりも暗い、、、深い深い黒の世界。。。

そこから物語は始まったんだ。


「人生をやり直せるとしたら。。。?」

テレビから耳を叩かれた。どうやら最近流行の月九のドラマらしい。

続けて主人公らしき男が「三十分 三千円で戻れますよ〜」と夢のようなセリフを吐いた。

些か高いような気はするが、、、 「三十分三千円か。。。」無意識に呟いた。

「ん?一馬?何か言った?」 妻の里美だ。

「いや、、、過去に戻るとしたらって考えてただけ。あはは、声大きかった?ゴメンね」

三輪一馬 僕の名前だ。 子供にも恵まれ妻とも仲の良い普通に幸せな家族だと思う。

二十三歳で結婚。翌年里美が妊娠し、一人娘が誕生。 名前を「凛」と名付けた。

あれから七年後、食卓に並べられたハンバーグと味噌汁、白米を頬張りながらテレビを見ている。

里美と凛はこの摩訶不思議なドラマを毎週楽しみにしているらしい。

「これ、いつからやってるの?」

「確かねぇ、、今回で三話目?かな? 結構面白くって! 凛とハマちゃった!あ、、もしかして!!一馬もハマちゃった??」

「うん、意外とね。 考えちゃうよね」

「何それ! あ、、まさかちょっと戻れたらなぁ。。とか思ってるんでしょ?? 私という素敵な嫁を手に入れたというのに!」

「違う違う!里美や凛とはこれからもずっと一緒に居たいと思ってるよ。ただなんとなくね。。。子供の頃の夢だったりとか、仕事だったりとかさ。。。」

「真面目か!」

そう言っていつもの大笑いを得意げに見せた。凛はずっとテレビに噛り付いてる。

食事も終わり、食器を洗う。カウンター越しにテレビを見ている二人を眺めながら、あのドラマの主人公の言葉が僕の頭の中を支配していた。

「過去に、、か、、、」口に出してみた。


「一馬?どうしたの?」不安げに里美が僕を見つめていた。

かなりの時間ボーッとしていたらしい。里美の言葉を合図に、僕の耳に蛇口から勢い良く流れる水の音が飛び込んできた。手は泡だらけで、どうやら僕の思考は何処かへ行ってしまっていたらしい。

「あ、ごめん。考え事してた」

昔からそうだった。気になる言葉だったり、行動だったりを聞いたり目にした時、その気になる『何か』を僕は意識の中で探しに行くことが良くある。目から入ってくる情報とは別の映像が脳に浮かぶ。幼少期の頃、見てもないのに隣の屋根の色が浮かんだり、友達を見ると光ってたり、、、人とはどこか違うんだろうなと薄々感じて隠しながら今まで生活してきた。

「大丈夫?今日忙しかったの?」

まさか過去に戻れるとしたら?を本気で考えてたなんてさすがに言えない。言ったら不審がられるのが落ちだ。

「ん?あー。。。そ、そうだね、、ちょっとバタバタしちゃった」

「忙しいことは有難いことだし!頑張らないとね!!パパ! 」

「お、おぅ。。」とは言ったものの。。。

「風呂入ってくる」

泡だらけの手と食器を綺麗にしどこかふわふわした感じで皿を並べた。

「凛も一緒に入るー!!」現実に引き戻すかのような娘の言葉。

「お!そっかぁ!入るか!」自分がパパであることを再認識させられる瞬間だ。


ーー 今度は頭が泡だらけになっていた。

凛は湯船で歌を歌いながらアヒルのおもちゃで遊んでいる。それを良いことに、僕の意識は探しに行こうとしていた。

過去へ。。。


小さな島国で生まれた。理髪店を営む父と母、そして五つ上の兄。僕の家族構成となる。

野球好きの親父の圧力もあり(本当は違うスポーツをしたかったが思いつくものが無くなんとなくやっていた)小、中、高と野球をやり、中学と高校ではキャプテンも経験した。

頭は悪いほうだったので大学には行けず、島を出て大阪の理美容室に就職した。

そう、蛙の子は蛙なのだ。トンビは鷹を産まなかった。

手に職をつけ、数年が経ったころ、里美と出会った。そして凛に出会えた。


シャワーの音。

泡あわの頭を手慣れた手つきで流し、身体を泡あわにした。

「凛、お前も洗うか?」

「うん! パパ洗ってー!!」パパであることをまた再認識。お前の言う事ならなんだってしてあげるさ。

今度は娘を泡だらけに。

二人でモコモコになり、学校での話やお友達の話、七歳なのに時々恋話。キャッキャキャッキャ言いながらのお風呂。普通であること の幸せ。なのになぜこんなにも過去を考えてしまうんだろう。。そんな僕の気持ちを見透かしたように凛が質問してきた。

「ねぇパパ、なんでママとケッコンしたの??」 子供あるあるだ。

「なんでかなぁー、、気がついたらママと結婚してた ハハハ」

「なにそれー 変なの!」

「変か? ハハハ!」 何故か曖昧な答えしか出てこない。

そもそも何故里美と結婚したのか。。凛をフカフカのバスタオルで拭きながら考えてはみたが、その答えは今の所見つかりそうもない。

凛の濡れた髪をドライヤーで乾かし寝かしつける。その間に里美はお風呂に入る。ほぼ毎日がこの流れだ。我が家のルーティンみたいなものだ。

「ねぇパパ!凛もいつかケッコンするのかな??」

「そりゃーするでしょ」(本当はして欲しくない)

「パパさみしいでしょ??」イタズラ顔で僕を見つめる。

「ん?そーだなぁー、寂しいような、、嬉しいような、、複雑だなぁ。。パパよりカッコよかったら諦めがつくかなぁ」(九:一でさみしいよ!!)

「そっかー!パパよりカッコいい人いつか見つけよーっと!ビックリさせちゃうんだから!!」

「いつになることやら ハハハ」(出来ればそんな日が来ない事を願う)

「おやすみ!」

子供はいつも全力だ。さっきまで話してたのに、、もう寝息を立てている。

「おやすみ。。。」 電気を消しそっと扉を閉めた。

カチャン。。

静かな廊下に無機質な音が響く。今日という日がひと段落したかのようにその音は何処かに吸い込まれていった。

リビングに戻ると、里美が風呂上がりのバニラアイスをスプーンでほじくり返しているところだった。

これは里美のルーティンということになる。

「あ、一馬ありがとう、あなたも食べる?」ニッ と笑って右手のカップを僕に向ける。

「太るからいい」

「当てつけか! 」(十:0で当てつけですよ)

そして今日が終わっていった。。。

普通であることの幸せ 普通ってなんだ。。。?


ピピ ピピ

目覚ましが僕を起こした。 凝り固まった左手首をほぐす。先月自転車でコケてしまい手首を骨折した。

「イテテ、、、まだまだだなぁ、、、」

そう呟き、ベットに座り最近よく見る夢を思い出していた。

真っ暗な中に、得体の知れない金色に輝く玉?エネルギー?太陽?みたいなやつが目的もなくウロウロとしている夢だ。

「またみたなぁ、、、」手首を回しまた呟いた。

「一馬ぁ!朝ごはんよー!」

里美の声で今に引き戻される。

ふぁ〜、、、とあくびをし、洗面台へいき顔を洗った。今日が始まる。

「おはよ」

里美はせっせと凛の保育園の準備をしていた。凛は我関せずで朝ごはんと格闘している。

エネルギーを充電するかのように僕もご飯をかきこんだ。

「一馬、あとよろしくね! 凛!保育園行くよ!」

毎朝のルーティン。感謝しかない。

「いってらっしゃい 気をつけてね」そう伝え見送った。







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