4-4


 ケイゴが「木崎さんに渡したいものがある」と言って中抜けし、準備を整えてから、僕たちは事務所に向かった。

 いつぞやと同じジャージ姿の木崎に案内されて事務所奥の応接室に入ると、革張りソファに座る黒澤誠二郎と例のソフトモヒカン、そしてその前の床に正座する金髪坊主とビジュアル系赤メッシュの少年という光景が広がっていた。金髪と赤メッシュに傷は見えないけれど、目の周りは泣き腫らしたカトウに負けず劣らず真っ赤になっている。既にだいぶ絞られた後なのだろう。

「座れ」

 木崎がカトウの背中を押した。カトウが赤メッシュの隣に正座する。煙草をくゆらせていた黒澤がふーと煙を吐き、他人事のように語り出す。

「とんでもねえことしたなあ、お前」

「……すいません」

「ま、お前にも事情があったのは分かるけどよ。筋は通して貰わねえとなあ」

 黒澤がソフトモヒカンを横目で見る。ソフトモヒカンは腕を組み、顎を上げ、カトウを見下ろす。カトウが開いた手を身体の前に置き、上体を深々と下げて額を床につけた。

「本当に、すいませんでした」

 土下座。黒澤が「どうする?」とソフトモヒカンに尋ねる。ソフトモヒカンは「こいつはいいっす」と答える。一件落着。張り詰めていたカトウの頬が緩む。

 ――ここだ。

「いいんですか?」

 全員の視線が、僕に集まった。

 ケイゴとソンは知っているから無表情。黒澤と木崎とソフトモヒカンは怪訝そうに眉をひそめる。金髪と赤メッシュはついていけず呆ける。そしてカトウは――くりくりした目を見開き、大げさなぐらいに驚いていた。

「確かに命令されたのかもしれないけど、殴ったのは確かですよね。それを無条件で釈放しちゃうの、甘くないですか。この三人、一応仲間ですよ?」

 カトウが「え?」と声を上げた。黒澤が顎鬚を撫でながら尋ねる。

「何が言いてえ」

「黒澤さんの言う通り、筋は通した方がいいと思うんです。ケイゴ」

 ケイゴが「おう」と前に出た。そして黒いプラスチックの塊――『光の旅人』の集会に殴り込みをかけた時に使った火薬銃と、弾となるキャップ火薬を六つ取り出して僕に渡す。僕はそれを全て右の手のひらに乗せ、黒澤に向かって差し出した。

「この弾は五つ使用済みで、一つだけ未使用です。これを使って、カトウとそこの高校生二人でロシアンルーレットをする。耳の穴に銃口を入れて撃てば、鼓膜ぐらいは破けるでしょう。カトウが勝てばカトウはその二人から釈放。仲間じゃなくなるので罪も消滅。負けたら……それは黒澤さんに任せます」

 さっきから驚きっぱなしのカトウに加え、金髪と赤メッシュの表情も驚愕に染まった。黒澤が愉快そうに「ほう」と呟き、火薬銃と弾を取る。

「俺へのケジメをダシにして、仲間に復讐させようってか」

「まあ、そういうことです。いいじゃないですか。元々許すつもりだったんだから、この勝負で黒澤さんが失うものはありません」

「敵は二人だぞ。順番が来たら両方に撃たせんのか?」

「いえ。片方で構いません。確率は五分五分にしたい」

「なるほど。いいぜ、乗った」

 黒澤が全てのキャップの中を覗いた。未使用の弾を特定。そして火薬銃のリボルバーに弾を詰めながら、僕に声をかける。

「ただし一つ、追加条件がある」

「追加条件?」

「ああ。お前の仲間が負けたら、お前が俺のもんになれ。うちの仕事を手伝わせる。俺はお前が気に入った」

 僕が黒澤にものになる。予期せず交渉のテーブルに上げられて息を呑む僕に、黒澤が火薬銃を床に置いて不敵に笑った。

「確かに失うものはねえが、得るものもねえ。他人様を自分の思うように動かそうってんだ。対価は示して貰わねえとな」

 鋭い目が「冗談じゃねえぞ」という言葉を伝える。僕はごくりと唾を飲んだ。そして黒澤を見つめ返し、口を開く。

「いいですよ」

 限界まで見開かれていると思っていたカトウの瞳が、さらにもう一回り大きくなった。弾かれたように立ち上がり、僕に迫る。

「お前、何言ってんだよ!」

「仕方ないだろ。そうしないと勝負させてくれないって言うんだから」

「アホか! やる意味ねえだろ、こんな勝負!」

「本当にそう思うか?」

 問いかけに、カトウが怯んだ。僕はさらに言葉を重ねる、

「イジメられてヤケになって家出して助けられて、お前自身は何もしないまま全部解決してめでたしめでたしで終わって、その後に心の底から笑ってられんのかよ」

 カトウを睨む。カトウは気圧されて目を伏せる。返事はない。ないけれど、言っているも同然だ。それが声になって現れるのを、僕はただじっと待つ。

 カチ。

 プラスチックの塊が動く、硬質な音が聞こえた。振り返ると、耳に火薬銃の銃口を突っ込んだ赤メッシュが不気味に笑っている。赤メッシュが火薬銃を床に置き、カトウに向かって昏い声でささやく。

「逃がすかよ」

 背中にゾッと悪寒が走った。こいつらからしたらほとんど何のメリットもない勝負だ。なのに、この思い切りの良さ。せめて地獄への道連れを一人でも増やしてやろうという、ドス黒い覚悟が伝わってくる。

 カトウが床に座った。そして震える手で火薬銃を取り、その銃口を自分の耳に当てる。十秒、二十秒、三十秒――

 カチ。

 不発。カトウがはーはーと荒い息を吐きながら火薬銃を床に置いた。ふと気づくと、黒澤がじっと僕のことを嘗め回すように眺めている。そういえばこいつ、男色家の噂があるんだった。「俺のものになれ」にはもしかしてそういう意味も含まれているのだろうか。だとしたらそれはちょっと勘弁して欲しい。

「ビビりすぎだろ」

 金髪がカトウに毒づき、火薬銃を耳に当ててトリガーを引いた。不発。残り三発。金髪がカトウの目の前に火薬銃を放り投げる。だけどカトウはそれを手に取ることなく、情けない顔で僕を見上げる。

「なあ、ヒロト。お前、何か策があるんだろ?」

 やぶ蚊の羽音みたいに貧弱な声。口元には、引きつった笑み。

「よく分かんねえけど、おれが勝つようになってんだろ? だからお前、簡単に自分の将来を賭けたんだろ? それならそうだって今すぐ――」

「ねえよ」

 カトウの顔が、絶望に染まった。

「この勝負は、お前が覚悟決めてお前の手で勝つことに意味があるんだ。俺たちが裏から手を回したら台無しだろ。まあ、良い案を考えてる時間がなくて運ゲーにしたのは悪かったと思うけど、運も実力のうちって言うしな。そこは許してくれ」

「……じゃあお前、五割負ける勝負に自分の人生ベットしたのかよ」

「仕方ないだろ」

 僕は背筋を伸ばし、カトウに向かってニッと笑ってみせた。

「仲間のために身体張るのが、『戦士』の役割なんだから」

 悪かった。

 お前が苦しんでたこと、僕たちにコンプレックスを感じていたこと、今までずっと、気づけなくて悪かった。もしかしたら僕たちのスピードは、お前にとっては少しばかり早いのかもしれない。だけど僕たちはお前のためにスピードを落としてやるつもりはない。全速力でこの人生を駆け抜ける。

 だから、ついて来いよ。

 一緒に走ろうぜ。

「……ヒロト」

 カトウが僕の名を呼び、ゆっくりと銃を持ち上げた。そして銃口を小さな耳の穴に突っ込み、腕をぶるぶると震わせる。目を瞑り、唇を引き絞り、引き金を引く。

 カチ。

 不発。カトウが肩で息をしながら、腕をだらりと下げて俯く。これで残り二発。次の一発で勝負が――

「……なあ」

 俯くカトウから、クリアな呟きが届いた。

 声が震えていない。腕も、肩も、背中も震えていない。ついさっきまで電動のマッサージ器みたいにどこもかしこもブルブル震えていたくせに、いつの間にか落ち着きを取り戻している。

「映画でそういうシーンを見ただけだから間違ってるかもしれないけど、ロシアンルーレットってさ……」

 カトウが顔を上げ、右手を持ち上げ、銃口を耳に当てた。

?」

 トリガーにかけた指が、動いた。


   ◆


 カチ。

 硬い音が応接室に響く。勝利者を告げるレフェリーコール。カトウがゆっくりと立ち上がり、火薬銃をポンと高校生たちの前に放り投げた。

「お前たちの番だ。どっちが鼓膜破りたいか、じゃんけんでもして決めろ」

 高校生たちが呆けた顔でカトウを見る。僕もケイゴもソンも木崎もソフトモヒカンも呆気に取られている。唯一、黒澤だけが納得いかないように眉根をひそめ、ドスの効いた声でカトウに尋ねる。

「どうして分かった」

 僕たちの想いを代弁。カトウは、自嘲気味に笑いながら答えた。

「おれは弱いから、いつも周りの様子を気にしてるんだ。ビクビクオドオドしながら、他人のご機嫌を伺って、どうにか生きてる」

 カトウが黒澤を見た。自分を嘲る笑いは、もう消えている。

「あんたはどこに弾を入れたか知っている。交互に一発ずつ撃っていったら、どっちが勝つか分かっている。そのあんたが勝負中、ヒロトを見てた。勝負をしているおれたちじゃなくて、ヒロトを。あんたはおれが負けることを知ってたから、終わった後のことを考えて、ヒロトに興味が行ってたんだ」

 黒澤が唇を歪めた。心を覗かれたことへの不快。

「だから、弾が入ってるのは四発目か六発目だと思った。でも、それに気づいた時にはもう四発目でさ。四発目を撃つのはめちゃくちゃ怖かったよ。ヒロトに泣きついたりして、思い返してもすげえ情けなかった。でも、それさえ越えれば――」

 カトウが拳を腰だめに握り、高らかに宣言した。

「おれの勝ちだ」

 カッコいい。

 これはもう文句なしだ。真正面から勝つのは厳しいから運ゲーでどうにか勝ってくれなんていう、僕たちのセコい期待をやすやすと飛び越えた。僕はカトウに向かって親指を立てながら、満面の笑みを浮かべて口を開いた。

「や――」

「ざけんな!」

 僕の「やったな」が、立ち上がった金髪の叫び声にかき消された。

「都合よすぎんだろ! てめえら、グルだな! 汚ねえぞ!」

「……頭悪いなあ」

「ああ!?」

 ソンの呟きを聞き、金髪がギロリと目を尖らせた。ソンは動じることなく、めんどくさそうに答える。

「都合よすぎるも何も、そもそもこれはやらなくてもいい勝負なんだ。黙ってればそのまま解放されたんだから。そんな勝負をわざわざ持ちかけて裏に手を回してまで勝ちに行く理由ってなに? それと、そんな話にヤクザの人たちが乗っかる理由は? 少しは考えて発言しなよ」

 ソンがこれみよがしに、盛大なため息をついた。

「こんなバカにいいようにされてたなんて、カトウも報われないね」

 金髪が、床を蹴った。

 拳を振り上げ、一足飛びにソンに襲い掛かる。だけどその間を阻むようにケイゴがぬっと現れ、カウンター気味に右ひじを金髪の胸に叩き込んで後ろにぶっ倒した。そのまま身体を捻り、背後から襲い掛かろうとしていた赤メッシュに裏拳を喰らわせる。そして崩れ落ちる赤メッシュの腹に思い切り膝を入れ、胃の中身を吐き出させる。

 床に倒れる二人を見下ろし、ケイゴが冷たく言い放った。

「寝てろ」

 ――高校生二人には勝てない設定だろ。忘れんなよ。僕は応接室のドアを親指で示し、みんなに告げた。

「行こうぜ」

 三人で連れ立って応接室を出る。ドアを閉める瞬間に見えた金髪と赤メッシュは顔面蒼白。後はプロに可愛がって貰え。それが、報いだ。

 居室を抜け、事務所の玄関を出る。ドアを閉めようとしたその時、木崎が「待て!」と事務所の奥から駆けて来た。そして手に持っている薄いカード状のものを、カトウに向かって差し出す。

「あいつらが持ってた、お前が助けたガキの学生証だ。万引きだの何だのやらされてたんだろ。めんどくせえことになった時のために、証言とっとけ」

 思わぬ優しさ。ぎこちなく学生証を受け取るカトウの肩に手を乗せ、木崎がニヒルな笑みを口元に浮かべた。

「カッコよかったぜ」

 木崎が玄関のドアを閉めた。その筋の人間のお墨付き。僕はどうだと胸を張る姿を想像しながら、カトウの方を向いた。

 いなかった。

 正確には、目線の先にはいなかった。僕の足元でへたり込み、呆けたように口を開けてぼんやりと中空を見上げている。こいつ、まさか、ここに来て――

「……怖かったあ」

 腰を抜かすカトウ。僕は「ダセえなあ」とカトウを茶化す。するとソンが唐突に僕の腕を引っぱり、自分の手で僕の手を握って離し、その手のひらを開いて僕に示した。

「ヒロト」湿った皮膚。「すごい汗」

 僕は、口を噤んで黙った。ケイゴが「ダセえなあ」と僕の言葉を僕に被せる。カトウが鼻の下を擦り、照れくさそうに、嬉しそうに笑った。


   ◆

 

 事務所を出た僕たちは、いつもの「なんじゃもんじゃの木」がある公園に向かった。

 満月の下、公園のベンチに座ってこれからのことを相談する。今日どういうことがあったことにして、カトウの親にどこまで話すか。議論を重ね、最終的にはヤクザの絡むところだけを消してほぼそのままのことを話すことにした。街で不良に目をつけられた。脅されて犯罪に手を染めた。不良を刺そうと思って包丁を持って出かけた。僕たちに見つかって連れ戻された。そういう筋書き。概ね、間違ってはいない。

 方針が決まり、カトウが家に電話を入れる。立ち上がって顔を背け、こそこそと話をするカトウは、明らかに親との会話を僕たちに聞かれないようにしていた。さぞかしイヤなことを言われているのだろう。名前とか、名前とか、あと名前とか。

 電話が終わった後、カトウはベンチに戻り、肩を落として大きなため息をついた。隣の僕はその肩をポンと叩いて「お疲れ」と声をかける。そして本日の功労者を気持ちよくしてやろうと、おべっかじみた言葉を口にする。

「それにしてもお前、今日すごかったな」

「何が?」

「ロシアンルーレット。伊達に『盗賊』じゃないよ。人のことよく見てる」

「ああ。あれ、後付けだけどな」

 後付け。思わぬ返事に、僕は続く言葉を失った。代わりにソンが後を引き継ぐ。

「どういうこと?」

「何にせよ、五発目は撃つつもりだったんだ。それで撃つ理由を探して、あの理屈にたどり着いた。あれがあったおかげでだいぶ気楽には撃てたけど、別にあれがなくても、おれは五発目を撃ってた」

「なんで?」

「そうすれば、おれが勝負を決めたことになるだろ」

 カトウが僕を見る。丸くて幼い、真っ直ぐな瞳。

「あいつらに五発目撃たせて、弾が出ればいいよ。でも出なかったら、あいつらの手で勝負が決まって、おれと一緒にヒロトまであいつらに負けたことになるだろ。それはダメだと思ったんだ。負けるにしてもちゃんとおれの手で負けなきゃならない。おれが自分の鼓膜をぶち抜いて、そうやって負けなきゃ、おれのために身体張ってるヒロトに申し訳ない」

 カトウが鼻をこすり、照れくさそうに笑った。

「だからあの勝負、勝ったのは俺じゃない。ヒロトだよ。ヒロトがいたから、おれは五発目を撃てたんだ」

 ――そうか。

 ようやく分かった。背負っているものがなくたって、カトウは強い。こいつのスピードは僕たちのスピードにひけを取っていない。強さに無自覚なのは僕たちじゃない。カトウだ。

「バカ」

 ケイゴがベンチから立ち上がった。そしてカトウの前に立ち、頭をコツンと叩く。

「今日勝ったのはお前だよ。自信持て。せっかくカッコよかったんだから、ふんぞり返って自慢してろ」

 カッコいい。この慧海のありとあらゆる賞賛に勝る誉め言葉だ。はにかむカトウの向こうから、ソンが僕に声をかけた。

「そうだ、ヒロト。姫に連絡入れないと。たぶん心配してるよ」

 僕は「あ」と声を上げた。そういえば病室を飛び出してそれっきりだった。四人で事務所に出向く前辺りで連絡を入れておけば良かった。

 僕は立ち上がってスマホを取り出し、姫に電話をかけた。コール三回で呼び出し音が途切れる。早く姫にカトウの雄姿を伝えたくて、心を弾ませながら相手の応答を待つ。

「もしもし」

 男の声。

 姫ではないけれど、誰の声なのかはすぐに分かった。月の王、相馬幹彦。意外かつ苦手な相手の登場に、つい背筋がピンと伸びる。

「……お父さんですか?」

「そうだ。七瀬くんだな」

「はい。娘さんとお話がしたいんですけど、代わって貰えますか?」

「それは出来ない」

 きっぱりと言い切られる。半年経って警戒も緩んできたと思っていたのにこの仕打ち。この間、外で姫を倒れさせてしまったのがいけないのだろうか。

「あの、話だけでいいんです。そんなに長くはかかりませんから」

「――ああ、そういう意味じゃない。本当に『出来ない』んだ」

 意味深な台詞。そして続く、強い言葉。

「今、あの子は集中治療室にいる」

 痺れを伴う衝撃が、鼓膜から脳天に突き抜けた。

 僕は集中治療室と呼ばれる部屋に入ったことがない。そこで何が行われているかも知らない。だけどその意味するところは、分かる。冷たくて固くて鋭い、氷のナイフのような場所だと、姫の父親の暗く沈んだ声が雄弁に語っている。

「君たちが去った後にまた倒れた。治療室を出たら無菌室に行くだろう。しばらく会って話すことは出来なくなるはずだ。見舞いは控えてくれると助かる」

「……分かりました」

「ありがとう。追って、私か娘から状況を連絡する」

 用件が終わった。だけど、姫の父親は電話を切らない。僕も切れない。お互いに何も語らず数十秒の時が過ぎ、やがてくぐもった声が、電波に乗って僕の耳に届く。

「すまない」夜風が吹く。「祈ってくれ」

 電話が切れた。

 僕はスマホをポケットにしまい、両腕をだらりと下げた。カトウが「ヒロト?」と心配そうな顔で声をかけてくる。ケイゴとソンも同じような顔で僕を見ている。僕は、今どんな顔をしているのだろう。知りたくて、知りたくない。

 夜空を見上げる。暗幕に浮かぶ満月に開いた右手を重ね、そのまま月を握りつぶすように指を折り曲げる。月の光を浴びながら拳を高々と突き上げ、そういう形の銅像みたいに無言で佇む。

 決戦。

 そんな言葉が、頭に浮かんだ。

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